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日経特集記事「守られない自主規制 漁獲規制の魚種少ない日本 」 [漁業資源管理]

 先日取材を受けました日本経済新聞社記事を以下一部紹介いたします。
 共有資源論のエリノア・オストロムが指摘しているように、コミュニティの自主管理がうまくゆくためには、きちんとした履行監視と違反者に対する罰則のシステムがなければなりません。日本の自主管理にはこれがないため、うまくゆかない、ということになってしまいます。

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 【守られない自主規制 漁獲規制の魚種少ない日本】

 「かつて漁業大国として名をはせた日本。しかし、水揚げ高は大きく減っている。資源管理は全く野放図というわけではないが、対象となる魚種が少ないなどの課題がある。

 TAC(トータル・アローアブル・キャッチ)と呼ばれる漁獲可能量があり、サンマ、スケトウダラ、マアジ、マイワシ、マサバ・ゴマサバ、スルメイカ、ズワイガニの7魚種に適用している。TACは7魚種それぞれの資源動向などを調査して決めた生物学的許容漁獲量(ABC)に、社会的・経済的要因を加味して決められ、各都道府県に割り当てられる。

■効力の乏しい漁獲規制

 だが水産庁の元職員で漁業資源課長などを務めた東京財団上席研究員の小松正之氏は「TACは事実上、乱獲を許す水準に設定されている」と憤る。ABCには「これ以下の漁獲量なら明らかに安全」ということを示すABCターゲットと、「これ以上の漁獲量は明らかな乱獲」を意味するABCリミットという2つの値がある。小松氏によると、TACはABCリミットを上回る値に決められることが多いという。一方で水産庁資源管理部管理課は「ここ数年はABCリミットとTACの水準をそろえている」と反論する。

 日本がTACを定めるのは7魚種のみ。一方でニュージーランドは628系群(系は一つの魚種の中で産卵場、産卵期、回遊経路などが同じ集団を指す)、米は約500系群、欧州は38魚種。小松氏は「TAC魚種は日本だけ圧倒的に少ない。魚種が豊富な東北でとれる魚20種類くらいにTACを設定すれば、日本全体でとれる魚の7~8割はカバーできる」と話し、TACを定める魚種を増やすべきだと主張する。

(中略)

 日本でTACが決められている7つ以外の魚種は、国や都道府県による公的管理と、漁業者による自主的管理の組み合わせにより資源が管理されている。

 公的な規制には漁業者に与える漁業許可や免許のなかで禁漁期間などを定める「漁業調整による公的規制」、とってよい魚の大きさや時期などを決める「漁業調整規則」、保護区の規定について定めた「海区漁業調整委員会の指示」がある。さらに各都道府県が地元にとって重要な魚種について「資源管理指針」を策定する。その指針に基づき、漁協や漁連が「資源管理計画」「漁場利用計画」を決める。指針と計画をつくる管理体系は2011年から始まったものだ。

 例えば宮城県は資源管理指針でクロマグロについて「休漁に取り組む必要がある」としている。これに基づき、牡鹿漁協では具体的な休漁日数や休漁方法を定めた資源管理計画を決めている。ただ、こうした都道府県の指針と漁協・漁連の計画に強制力はなく、計画に従う従わないは漁業者に任されている。

 漁業者に自主管理を守るよう促すために国がつくったのが、全国漁業共済組合連合会による補助だ。漁業者が都道府県のつくる資源管理計画を守れば、漁業者の収入が減少した場合に、全国漁業共済組合連合会から国と漁業者が拠出した積立金が支払われる仕組みだ。

 ところが、この制度は自主管理を守らせる仕組みとしては不十分だ。日本経済新聞が入手した資料では、宮城県内の各漁協がつくった14の資源管理計画の参加者数に占める共済の加入者数は平均38%だった。なかでも資源が減っているとされるスルメイカについては県漁協がつくった計画に参加する漁業経営体が55あるものの、うち共済加入者はひとりもいなかった。

 早稲田大学地域・地域間研究機構で環境政策論が専門の真田康弘客員次席研究員は「共済に入っていない漁業者には効かないインセンティブだ」と語る。「罰則のある漁業法や漁業調整規則違反でも、罰金だけなど大した罰則がないため、違反を抑止する十分な動機づけにはなっていない」と分析する。自主管理に任せる日本のやり方は意味をなさないものとなっている。

 水産庁漁政課の栗原秀忠課長は「日本は幼魚の発生量が毎年大きく変わる。一律で公的に規制しようとしても迅速に対応できず無理がある」と話す。

■守られない自主規制

 宮城県石巻市の底引き網漁師、阿部幸一氏は「自主規制を守っていない人はたくさん見たことがある」と話す。阿部氏が漁をする海域でもヒラメやアナゴ、マコガレイなどの魚種についてとってもよい大きさや時期、区域が指針や計画で決められている。

 こうした事態を受け、水産庁は15年度から全国の資源管理計画の有効性などを確かめる作業を始めた。多くの漁協や漁連は通常、計画そのものを公表していないが、水産庁は検証作業の結果を公表する方針だ。

 TACの7魚種は漁業者らが自由に競争してとりあい、漁獲量がTACに達した時点で漁獲をやめることになる。TACなど漁獲規制のない魚種はそれぞれの漁業者がより多くの魚をとろうとする。日本はTACの魚種が少ないため、自然と水産資源が枯渇しやすい。

 日本と違い、世界の主要な漁業大国ではTACで決められた国全体の漁獲総量をそれぞれの漁業者に割り当てる個別割り当て方式(IQ)がとられている。自分に割り当てられた量だけとってしまえば漁は終わりになるため、他の漁業者との競争意識が生まれにくく乱獲になりにくいとされる。

(以下略)」

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非常に丁寧に取材された記事です。全文は以下のリンク先から読むことができますので、ご関心のある方は是非。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO20037620W7A810C1000000/
【「守られない自主規制 漁獲規制の魚種少ない日本 :三陸沖の不都合な真実(中) 」日本経済新聞電子版2017/8/17 6:35】


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