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ワシントン条約海産種掲載提案に関するFAOの評価報告書 [国際会議]

 本年5月よりスリランカ・コロンボで第18回ワシントン条約締約国会議が開催され(私も出席予定)、うち海産種についてはサメ、ナマコに関する附属書掲載提案が出されています。
 これに関し、このほど海産種提案に関するFAO専門家パネル報告書が公開されました。附属書掲載については、ワシントン条約締約国会議決議Conf. 9.24 (Rev. CoP17)にその基準が詳細に定められており、FAO専門家パネルはこれに照らして提案が附属書掲載基準を満たすか否かについて検討を行ったもので、締約国会議でもこの結果がFAOより報告されます。というわけで、この結果を以下紹介してみます。

アオザメ(mako shark, Isurus oxyrinchus)附属書Ⅱ掲載提案
バングラデシュ、ベナン、ブータン、ブラジル、ブルキナファソ、カーボベルデ、チャド、コートジボワール、ドミニカ共和国、エジプト、EU、ガボン、ガンビア、ヨルダン、レバノン、リベリア、モルジブ、マリ、メキシコ、ネパール、ニジェール、ナイジェリア、パラオ、サモア、セネガル、スリランカ、スーダン、トーゴ共同提案
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【アオザメ(出典:Wikipedia commons)】
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【アオザメ分布域。出典:附属書掲載提案書20頁

◎ IUCNレッドリスト:絶滅危惧Ⅱ類(vulnerable) → 最新の資源評価で絶滅危惧ⅠB類(endangered)に危惧度格上げ

◎報告書要約
 本種の生産性は低いため、かつての水準から70%以上の減少が見られれば、本種は附属書Ⅱ掲載基準を満たす。
 北大西洋では50%の減少が見受けられ、今後数十年で70%以上の減少を来す可能性がある。他方本種については国際漁業管理機関のICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)により漁獲の削減措置が実施されており、これにより更なる減少に歯止めがかかる可能性がある。
 地中海でも資源量の減少が見受けられるが、どの程度減少しているかは不明である。
南大西洋、インド洋、北太平洋、南太平洋では、資源量が附属書掲載基準を満たすことを示す証拠はない。
 アオザメは確かに他のサメに比べて生産力が低いが、より多くのデータが他のサメに比べ存在する。
 以上より、現在のデータから鑑みると、この種が附属書Ⅱ掲載基準を満たすことを証明できていない。

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FAO報告書5頁に掲載されている、アオザメは「掲載基準を満たさない」にチェックが付された表。上記要約も同報告書5頁参照】



サカダザメの一種(blackchin guitarfish (Glaucostegus cemiculus), sharpnose guitarfish (Glaucostegus granulatus), and all other giant guitarfish, (Glaugostegus spp.) )附属書Ⅱ掲載提案
バングラデシュ、ベナン、ブータン、ブラジル、ブルキナファソ、カーボベルデ、チャド、コートジボワール、エジプト、EU、ガボン、ガンビア、モルジブ、マリ、モーリタニア、モナコ、ネパール、ニジェール、ナイジェリア、パラオ、セネガル、シエラレオネ、スリランカ、スーダン、シリア、トーゴ、ウクライナ共同提案
※ ワシントン条約では、その種自体は附属書Ⅱ掲載基準を満たしてはいないが、取引される形でのその種が付属書Ⅱ掲載種と類似していて執行官が区別できそうもない場合、「類似種」として当該種の附属書掲載を認めています(Conf. 9.24, Annex 2b A)。blackchin guitarfishとsharpnose guitarfish以外の掲載提案は、この類似種基準によるものです。
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【sharpnose guitarfish(出典:Wikipedia commons)。裏側がなんだか機嫌がよくない怪獣の顔のようです】
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【blackchin guitarfishとsharpnose guitarfishの分布図。出典:附属書掲載提案書4頁

◎ IUCNレッドリスト
・ blackchin guitarfish (Glaucostegus cemiculus):絶滅危惧ⅠB類(endangered)
・  sharpnose guitarfish (Glaucostegus granulatus):絶滅危惧Ⅱ類(vulnerable)

◎ 報告書要約
 Blackchin guitarfish (Glaucostegus cemiculus)とsharpnose guitarfish (Glaucostegus granulatus)はともに生産性は低~中程度である。Blackchin guitarfishは地中海北西部で資源が絶滅している。この他セネガルで当該種の長期的な資源減少があるとの証拠が存在するが、より広範囲に関する証拠はかけている。したがって当該種資源が減少している可能性があると考えらるものの、短期的もしくは長期的な規模での資源減少がこの種全般において見受けられるとの証拠に欠けている。
 このことはsharpnose guitarfish (Glaucostegus granulatus)についても当てはまる。インドのチュンナイで短期間のうちに94%の資源が減少したとの証拠があるが、種一般についての資源減少に関する証拠に欠けている。したがって当該種が減少している可能性はあると考えられるものの、短期的もしくは長期的な規模での資源減少がこの種全般において見受けられるとの証拠に欠けている。
 したがって、blackchin guitarfish及び sharpnose guitarfish双方ともに附属書掲載基準を満たか否か判断が付きかねる。地中海北西部でblackchin guitarfishは乱獲の結果資源が絶滅したが、この種全体に関する情報は存在しない。
 本専門家パネルは、当該種が附属書に掲載するか否かを締約国が検討するに際し、地中海北西部での資源が絶滅したこと、広範な地域において管理措置が存在していないこと、及び当該種のヒレが国際取引において極めて高い価値を有していることに留意することを勧告する。
 附属書掲載は地域レベルでの適正な管理を促進し、沿岸域でのサメ及びエイの漁獲に関する文書記録の改善に資すると考えられる。こうした取り組みには勿論コストがかかるが、当該サメのヒレが高い価値を有することを鑑みた場合、引き続き漁獲が弱まることなく行われ、その相当部分は違法・無報告・無規制(IUU)なかたちでなされる可能性がある。
 もし上記2種が附属書Ⅱに掲載されるならば、その他のサカダザメ(Glaucostegus spp)についても、これら2種と判別がつかないことから「類似種」としての附属書Ⅱ掲載が妥当である。

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FAO報告書35頁に掲載されている、提案されたサカダザメは「エビデンス不十分」として「その他」にチェックが付された表。上記要約も同報告書35頁参照】



ホワイトスポッテッドウェッジフィッシュ(white-spotted wedgefish, Rhynchobatus australiae)、トンガリサカタザメ(white-spotted wedgefish, Rhynchobatus djiddensis)、及びその他のシノノメサカタザメ科(Rhinidae)附属書Ⅱ掲載提案
バングラデシュ、ベナン、ブータン、ブラジル、ブルキナファソ、カーボベルデ、チャド、コートジボワール、エジプト、エチオピア、EU、フィジー、ガボン、ガンビア、インド、ヨルダン、ケニア、レバノン、モルジブ、マリ、メキシコ、モナコ、ネパール、ニジェール、ナイジェリア、パラオ、フィリピン、サウジアラビア、セネガル、セーシェル、スリランカ、スーダン、シリア、トーゴ、ウクライナ共同提案
※ ホワイトスポッテッドウェッジフィッシュとトンガリサカタザメ以外については、上記2種と類似していて見分けがつかないことに基づく掲載提案。
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【トンガリサカタザメ(出典:Wikipedia commons)】

◎ IUCNレッドリスト
・ ホワイトスポッテッドウェッジフィッシュ(white-spotted wedgefish, Rhynchobatus australiae):絶滅危惧Ⅱ類(vulnerable)
・ トンガリサカタザメ(white-spotted wedgefish, Rhynchobatus djiddensis)絶滅危惧Ⅱ類(vulnerable)

◎ 報告書要約
 ホワイトスポッテッドウェッジフィッシュとトンガリサカタザメはともに生産性は低~中程度と考えられる。当該種はインド太平洋海域に分布しているが、資源評価は存在していない。附属書掲載提案書にある生息数トレンドに関する情報は限定的で、世界的規模でこの種が附属書Ⅱ掲載基準を満たすまでに減少しているか否かを判断するに十分ではない。
 本専門家パネルは、附属書Ⅱ掲載を検討するに際し、広範な地域で管理がなされないままに漁獲が行われていること、及び国際取引でヒレが高い価値を有していることに締約国が留意することを勧告する。
 附属書掲載は地域レベルでの適正な管理を促進し、沿岸域でのサメ及びエイの漁獲に関する文書記録の改善に資すると考えられる。こうした取り組みには勿論コストがかかるが、当該サメのヒレが高い価値を有することを鑑みた場合、引き続き漁獲が弱まることなく行われ、その相当部分は違法・無報告・無規制(IUU)なかたちでなされる可能性がある。
  もし上記2種が附属書Ⅱに掲載されるならば、その他のシノノメサカタザメ科(Rhinidae)の種についても、これら2種と判別がつかないことから「類似種」としての附属書Ⅱ掲載が妥当である。

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FAO報告書50頁に掲載されている、ホワイトスポッテッドウェッジフィッシュとトンガリサカタザメは「エビデンス不十分」として「その他」にチェックが付された表。上記要約も同報告書50頁参照】



クロナマコ属(Holothuria)3種(Holothuria (Microthele) fuscogilva, Holothuria (Microthele) nobilis, and Holothuria (Microthele) whitmaei)附属書Ⅱ掲載提案
EU、ケニア、セネガル、セーシェル、米国共同提案
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【 Holothuria (Microthele) nobilis(出典:Wikipedia commons)】

◎ IUCNレッドリスト
・ Holothuria (Microthele) fuscogilva:絶滅危惧Ⅱ類(vulnerable)
・ Holothuria nobilis:絶滅危惧ⅠB類(endangered)
・ Holothuria whitmaei:絶滅危惧ⅠB類(endangered)

◎ 報告書要約
 これはクロナマコはインド太平洋の熱帯・亜熱帯海域に広く分布しており、沿岸小規模漁業者により採取され、その多くは乾燥ナマコとして売買される。分布海域全域において漁獲がナマコに対する最大の圧力となっている。
 この種は地域的な絶滅に対する回復力を有しているが、資源密度の減少が広く報告されている。顕著な資源減少が記録されており、数世紀間で当該種が地域的に絶滅したとの記録もある。当該ナマコは一定程度の適切な資源水準が保たれなければ再生産を保つことができない。乱獲された当該ナマコ資源が回復した例が幾つか存在するが資源の回復には多くの年月を要し、回復の度合いは地域によって異なる。
 これらクロナマコには高い市場価値があり沿岸零細漁業者はこれらを漁獲する能力を有しており、これはクロナマコ資源のリスク要因となる。とりわけHolothuria (Microthele) whitmaeiは浅瀬に生息することから、漁獲はとりわけリスク要因と認識される。
 現在各国における管理措置は当該資源の生産を安定させるに至っておらず、多くのインド太平洋諸国で一気に大量のクロナマコ漁獲が行われている。当該資源の生産性、その減少率、漁獲圧力、及び資源回復力等を検討に入れつつ、本専門家パネルはそれぞれのクロナマコについて附属書Ⅱ掲載基準を満たすか否かの検討を行った。
 Holothuria fuscogilvaについては、地域的に顕著な資源減少が認められるものの、現在入手可能な情報から鑑みると、附属書Ⅱ掲載基準を満たしていない。  
 Holothuria nobilisについては、現在入手可能な情報からでは附属書Ⅱ掲載基準を満たすか否か判断する情報が十分でない。しかしながら、当該種はHolothuria whitmaeiの姉妹種であり、生活史の点で多くの類似性を有する。
 Holothuria whitmaeiについては、現在入手可能な情報から鑑みると、附属書Ⅱ掲載基準を満たしている。 
 乾燥させた場合上記3種は取引の段階で見分けがつき難い可能性があることから、本3種については「類似種」としての掲載が妥当である得る

クロナマコ.jpg
FAO報告書62頁に掲載されている、Holothuria (Microthele) fuscogilvaは「掲載基準を満たさない」、Holothuria (Microthele) nobilisは「エビデンス不十分」として「その他」、Holothuria (Microthele) whitmaeiは「掲載基準を満たす」にチェックが付された表。上記要約も同報告書62頁参照】

 日本はワシントン条約海産種掲載に関して、FAO専門家パネルの結果を尊重するようこれまで一貫して主張してきました。
 したがって、アオザメについては提案に反対投票するものの、クロナマコについては提案種の一部が掲載提案を満たしており、かつ製品段階で見分けがつかない以上、賛成の立場を取ることは当然と言ってよいと思われます。また、附属書掲載基準を定めたワシントン条約締約国会議決議Conf. 9.24第2項では、「予防的アプローチ(precautionary approach)」として「当該種の保全にとって最善なように行動し、附属書IまたはIIの改正案を検討する際にはその種について予測される危険性に比例した対策を採る」ことを求めていることから、その他のサメ附属書掲載提案についても賛成の立場を取ることが強く期待されるところです。

 なお、これまでのワシントン条約締約国会議でのFAO専門家パネル、ワシントン条約事務局、IUCN/TRAFFIC、TRAFFIC単独、SSN(Species Survival Network)、及び日本の提案種に立場、並びに表決結果については以下の通りです。

FAO勧告一覧.jpg
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市民環境フォーラム「ワシントン条約会議を前に:ウナギやサメ、マグロの資源保護を考える」開催告知 [ウナギ]

 来る3月20日(水)17時半より東京千代田区内幸町・日本記者クラブで開催の「市民環境フォーラム」」で、ウナギ、サメ、マグロなどワシントン条約に関するシンポジウムを開催します。私もスピーカーというお話しますが、今回の目玉は何といってもウナギ研究若手のエース、中央大学の海部健三先生です。さらに主催者で地球環境問題の報道や数々の著作でも有名な井田徹治・共同通信編集委員からワシントン条約とゾウに関するプレゼンというさらなる目玉も予定されています。参加はこちらで受け付けています。ご関心のある方はぜひ。

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【ワシントン条約第16回締約国会議(2016年:ヨハネスブルク)本会議の模様】

なお、当日用いるパワーポイント資料は以下からダウンロードできます。
https://www.dropbox.com/s/g52zh52d5funkkr/%E3%83%AF%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%B3%E6%9D%A1%E7%B4%84%E3%81%A8%E6%B5%B7%E7%94%A3%E7%A8%AE%E5%8F%8A%E3%81%B3%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E5%AF%BE%E5%BF%9C.pptx?dl=0


 以下、開催告知文です。

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第四回 環境問題に関する市民勉強会「市民環境フォーラム:Civic Environment Forum」開催のお知らせ

 地球温暖化や生物多様性の消失、土地の劣化や森林破壊、プラスチックごみによる汚染や海洋酸性化など地球環境の破壊が進む一方、相互に関連する諸問題を的確に理解することが、どんどん難しくなる状況にあります。

 そんな中で、官製情報に偏らない最新の情報を共有し、環境問題に関する報道の質や市民による環境保護運動の効果を高めることを目指して、新たな勉強会を立ち上げました。国際環境保護団体・グリーンピースジャパンと民間団体「国際環境・開発情報研究所(IIIED:代表・共同通信社編集委員・井田徹治)」の共催です。

 各回、個別のテーマを決め、主催者側からの情報提供に加え、国内外の専門家をゲストに招いて最新の研究成果や世界の動向などを紹介して頂くという形を取ります。

 第4回は、「ワシントン条約会議を前に:ウナギやサメ、マグロの資源保護を考える」をテーマに、ウナギ研究の第一人者で、国際自然保護連合(IUCN) 種の保存委員会ウナギ属魚類専門家グループのメンバーでもある海部健三・中央大准教授、ワシントン条約の締約国会議をはじめ漁業資源管理の国際会議などに多く参加している真田康弘・早稲田大客員准教授のお二人をお招きして、ご講演を頂きます。

 5月末から6月にスリランカで開かれるワシントン条約の締約国会議を前に、日本人が広く利用している魚類に関連する最新の情報などを伺える機会です。

 原則として環境問題に関する報道関係者とNGO関係者を対象とした会ですが、この問題にご関心のある他の分野からの参加も歓迎いたします。各方面でご活躍のお忙しいゲストの話を伺うことができる貴重な機会ですので、ふるってご参加ください。

 フォーラムは、2カ月に1回程度、開催し、気候変動の国際交渉、環境金融やESG投資、漁業資源管理、生物多様性保全や外来種問題など時宜にかなったテーマで専門家をお招きする予定です。

 <CEF第4回会合>
テーマ:「ワシントン条約会議を前に:ウナギやサメ、マグロの資源保護を考える」
ゲスト:海部健三・中央大学准教授&真田康弘・早稲田大客員准教授
日時:2019年3月20日(水)17:30~(17:15開場、20:15終了予定)
場所:日本記者クラブ 大会議室
〒100−0011東京都千代田区内幸町 2-2-1 日本プレスセンタービル
※前回と場所が違いますのでご注意ください
懇親会:今回は懇親会は予定しておりません
参加費:無料 
参加のルール:ペットボトル、プラスチック製レジ袋、ストローなど使い捨てプラスチック製品を持ち込まない
参加登録:当日参加も歓迎しますが、会場の都合もあるため、事前に以下のURLより参加登録をいただければ幸いです。

https://goo.gl/forms/J38Mm6J4rJlkw0Gl1

お問い合わせ先
グリーンピースジャパン    
城野、河津
kouhou@greenpeace.org

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