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日本のIWC脱退:外交的失敗の帰結だ【共同通信配信コラム記事】 [クジラ]

先日共同通信から配信され、地方紙各紙に掲載された日本の国際捕鯨委員会(IWC)脱退に関するコラムを転載しました。もしよろしければご参考までに。

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【2018年9月に開催された国際捕鯨委員会本会合の模様】

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視標「IWC脱退」
国際社会で信頼なくす 
 外交的失敗の帰結だ  早稲田大学客員准教授 真田康弘 

 日本政府は国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を表明した。これ以上IWCに留まっても商業捕鯨再開の道筋が描けないので脱退で再開を図るという。しかし脱退は南極海の調査捕鯨からの撤退を意味し、南極海での商業捕鯨再開を長く求めてきた日本にとっては、IWCでの外交的失敗の帰結であるとも言える。
 そして日本周辺での商業捕鯨の実施も容易ではない。政府は排他的経済水域(EEZ)と領海内でのみ商業捕鯨を再開するとした。だが、日本も加盟する国連海洋法条約では、鯨類の保全管理は「適当な国際機関を通じて活動」しなければならないと規定している。従って日本のEEZや領海内でも商業捕鯨を再開する場合、IWCに代わる国際機関の設立するなどの対応が必要になる可能性が高い。
 カナダはIWC非加盟だが、先住民に年数頭のホッキョククジラ捕獲を許可しており、IWCに報告書等を提出。これにより「適当な国際機関を通じて活動」したこととしている。
 日本も再開後はIWCにオブザーバーとして参加し、報告書などを提出することで上記条項を満たすと主張すると思われるが、先住民の年数頭程度の捕獲と、100頭を超えるような商業的な捕獲とは規模や意味合いが異なり、EEZや領海内であっても国際社会からの批判は免れない。国際法的にも疑義が生じる。
 日本は「国際社会における法の支配」を外交の大原則としており、この意味からも脱退は、国際社会での日本の信頼性を低めこそすれ、高めることにはなり得ない。
 IWCの設立根拠である国際捕鯨取締条約第8条は、締約国政府が「科学的研究のため」であれば独自に捕獲許可を発給できると規定しており、日本はこれまでこの条項を援用し南極海での調査捕鯨を実施してきた。だが、脱退すると、これができなくなる。
 「南極海など公海での調査捕鯨を中止し、捕鯨はEEZ内に限定する」という案は約20年前に妥協案として当時のIWC議長から提起されたことがある。これが、IWCで成立し得る数少ない妥協案だと多くの識者が指摘していた。
 IWC内部にいても得られた可能性があることを、脱退で実現したというのは外交の失敗だと言える。南極海の捕鯨から撤退し、活動を大幅に縮小するという外交的敗北を「IWCからの堂々退場」というナショナリズム的レトリックで言い換え、糊塗(こと)することは正しい姿勢とはいえない。
 日本国内での捕鯨賛成論は純粋な「捕鯨支持」というより、ナショナリズム的感情に基づく「反・反捕鯨」と言うべき部分が少なくない。脱退はそうした心情を満たすものとはなるだろう。だが、その結果、得られるものは少なく、失うものは大きい。

【「静岡新聞」2018年12月28日付・「宮崎日日新聞」2018年12月27日付等掲載】
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イワシクジラワシントン条約:ワシントン条約第70回常設委員会報告 [クジラ]

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【ワシントン条約第70回常設委員会の模様】

 この2018年10月にソチで開催されたワシントン条約常設委員会には私もオブザーバーとして出席しましたが、この委員会では日本が調査捕鯨として公海で捕獲しているイワシクジラの国内水揚げが議題となり、ワシントン条約違反と認定されました。これにより翌2019年2月1日までに日本は是正措置を条約事務局に報告し、5月よりスリランカで開催されるワシントン条約締約国会議と併せて開催される次回常設委員会で日本の是正措置を審議する予定です。
 上記ソチ開催の常設委員会のイワシクジラ問題に関する審議の模様と結果についての小論をJWCS(野生生物保全論研究会)のニューズレターに寄稿し、このほどウェブにアップされました。以下からアクセスすることができます。ご参考までに。
 
https://www.jwcs.org/data/1812_sanada.pdf
【真田康弘「イワシクジラとワシントン条約:第70 回ワシントン条約常設委員会参加報告」『JWCS通信』第85号(2018年)、2~7頁】

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【赤の広場】




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