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News report on the catch of glass eels (eel larvae) and its import [ウナギ]

Anguilla_japonica.jpg
【ニホンウナギ。出典:Wikipedia Commons

4月7日にポストしたシラスウナギ(ウナギ稚魚)の漁獲激減に関する各紙報道と輸入について記事の英語版が野生生物保全論研究会(JWCS)さんのウェブサイトにアップされましたので、リンクを張ります。ご参考までに。

News report on the catch of glass eels (eel larvae) and its import
【JWCSウェブサイト】

こちらの記事についてはSustainable Eel Groupのウェブサイトでも紹介されました。



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「ウナギ稚魚の記録的不漁」報道と輸入トレンド [ウナギ]

 今回は、新聞各紙で報道されているシラスウナギ(ウナギ稚魚)の記録的不漁について、及び輸入のトレンドについてまとめてみました。

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シラスウナギ(ウナギ稚魚)の漁獲状況に関する各紙報道と輸入について

真田康弘(早稲田大学研究院客員准教授)


今漁期の「シラスウナギの記録的不漁」報道について

2016年ウナギ生産量.jpg
出典:日本養殖漁業協同組合連合会「都道府県別ウナギ生産量」


 日本でウナギの養殖が盛んであるのは上図のように鹿児島、愛知、宮崎、静岡であり、これら地域ではシラスウナギ(ウナギの稚魚)の漁獲も盛んである。
 
 今年漁期については2017年11月から今年漁期のシラスウナギ(ウナギ稚魚)漁が開始されたが、2018年1月中旬、現時点での国内外の漁獲量が前年漁期比で1%程度にとどまっているとして、各紙(毎日新聞2018年1月15日日本経済新聞1月17日、読売新聞1月22日、南日本新聞1月15日等)で記録的大不漁である旨報道された。

 3月以降に入り漁獲状況が持ち直しつつあるとの報道もなされている。例えば静岡県(採捕期間2017年12月1日~2018年4月30日)では、採捕許可量が1,775キロであるところ、1月20日までの時点で16.5キロと許可量の1%以下、前年漁期比でも2%程度でしかなかったところ(みなと新聞2018年2月2日)、3月1日~20日の採捕量は360キロと、例年3月の採捕量である300キロ前後を上回り、3月20日までの累計漁獲量は516キロとなった(みなと新聞2018年4月5日)。
 高知県(当初採捕期間2018年12月16日~3月5日)でも、採捕上限量350キロに対して2月26日時点での採捕量は9.5キロ(昨年は終了時で260キロ漁獲)と採捕上限の3%を下回る極端な不漁であったところ(日本経済新聞2018年2月28日)、漁期を3月20日まで延長したところ、4月6日までに高知県がまとめた集計で121.9キロに達したと報道されている(高知新聞2018年4月7日)。

シラスウナギ採捕量.jpg

*静岡県は3月20日までの採捕量、愛知県は2月末までの採捕量であり、今後採捕量が増加すると考えられる。 ** 上図の採捕上限及び採捕量の出典は以下の通り。静岡県2017年漁期採捕上限:みなと新聞2018年2月2日。静岡県2016年度漁期採捕量:中日新聞2018年1月11日。静岡県2017年漁期採捕量(2018年3月20日まで):みなと新聞2018年4月5日。愛知県2017年漁期採捕上限及び採捕量(2018年2月末まで):みなと新聞2018年3月30日。高知県2017年漁期採捕上限及び2016年採捕量:日本経済新聞2018年2月28日。2017年漁期採捕量:高知新聞2018年4月7日。宮崎県2017年漁期採捕上限及び採捕量:みなと新聞2018年4月2日。宮崎県2016年度漁期採捕量:宮崎日日新聞2017年3月22日付、鹿児島県2017年漁期採捕上限と採捕量:みなと新聞2018年4月9日、鹿児島県2016年及び2017年漁期採捕量:南日本新聞2018年4月6日。 *** 愛知県の2016年採捕量が空欄になっているのは現段階で筆者がデータを有していないためであり、採捕がなされなかったことを意味しない。

 しかしながら、静岡県で3月20日までの累計採捕量は前年同期比で7割減であり(みなと新聞2018年4月5日)、高知県にしても漁獲量は前年に比べて半分以下、採捕上限比35%に過ぎない(上図参照)。宮崎県(採捕上限500キロ)では、今期(2017年12月11日~2018年3月25日)の採捕量は99.4キロと前年同期比8割減、統計を取り始めた1994年度以降で最低の量となった(みなと新聞2018年4月2日)。鹿児島県でも3月31日にシラスウナギ漁が終了したが、許可量1,883キロに対して実際に採捕されたのは192.2キロと1割程度、前年漁期漁獲量(577.7キロ)と比べても約33%にとどまり、2012年度の149キロに次いで過去2番目の低さとなった(みなと新聞2018年4月9日付・南日本新聞2018年4月6日)。
 この他まだ漁期は終了していないが、広島(漁期2018年2月1日~4月30日)ではシラスウナギ漁が認められている福山市の芦田川漁協と呉市の養殖業者では、3月中旬時点での採捕量は芦田川漁協では昨年比4割、呉市の養殖業者では1割以下にとどまっている(中国新聞2018年3月25日)。愛知県(漁期2017年12月16日~2018年4月30日)の2月末までの採捕量(採捕上限2,000キロ)は24.2キロと前年の同じ時期に比べて5%しか採捕されていない(みなと新聞2018年3月30日)。水産庁によると、3月末日までの養殖池に入れられたシラスウナギ(国内で採捕されたものと海外で採捕され輸入されたものにより構成される)の量は、8.8トンとなっており、前年同期(18.6トン)と比べて大きく下回っており、これは「日本を含む東アジア全域でシラスウナギ採捕が不調であり、採捕量が減少していることによる」としている(水産庁「ウナギをめぐる状況と対策について」、2018年4月、4頁)。
 以上をまとめると、3月に入り漁獲量が増えた地域はあるものの、現時点では全体として漁獲量は前年に比べて顕しく減少しており、記録的な不漁に見舞われた地域があると結論付けられる。


台湾からの密輸であることが強く疑われる香港経由のシラスウナギ輸入について

 日本のウナギ養殖は国産のシラスウナギだけでは養殖池に入れるための需要を賄えないため、外国から輸入にその一部を依存している。例えば2016年に養殖のため池入れされたシラスウナギ19.7トンのうち、約30%に相当する6.1トンは外国からの輸入となっている(水産庁「ウナギをめぐる状況と対策について」、2018年4月、4頁)。

シラスウナギの輸入量.jpg
出典:財務省貿易統計
 
 上図は日本のシラスウナギ輸入を国別に分けたものであるが、これを見て理解されるように、輸入の多くは香港からとなっている。例えば、2016年の輸入量総計9,373キロのうち約84%の7,832キロは香港からのものである。しかしながら、香港にはシラスウナギが遡上する河川はほとんど存在しないため、ほぼその全ては他国から輸入されたシラスウナギが香港を経由して日本に輸出されているものと考えられる。

 加えて上図から理解されるように、香港からのシラスウナギ輸入が急増したのは2007年以降であり、これはそれまでシラスウナギ供給先であった台湾が原則としてシラスウナギの輸出を禁止した時期と一致している。したがって香港から日本に輸出されるシラスウナギの大部分は台湾から違法に輸出されたものと強く推量される。関係者の間でも香港からのシラスウナギの大部分が台湾経由のものであることは周知の事実であるが、香港当局も日本の当局もこうした密輸由来のシラスウナギの防止する対策を一切講じておらず、WWFの調査でもウナギは日本の輸入水産物のなかで最もIUU(違法・無報告・無規制)漁業由来のリスクが高いと指摘されている(WWF Japan, “IUU Fishing Risk in and around Japan: Final Report,” May 2017)。

シラスウナギ2017年漁期輸入量.jpg
 
なお、上図は現行の2017年漁期におけるシラスウナギの輸入量である。この図からも理解されるように、ビカーラ種と推測されるフィリピンからのもの以外は全て香港からの輸入である。


国内的・国際的規制の必要性について

 シラスウナギは少なくとも一部地域において記録的な不漁となっているばかりか、2016年漁期(2016年11月~2017年4月)にかけて国内で採捕されたシラスウナギのうち、45.45%に違法取引の疑いがあると報道されており(静岡新聞2017年6月14日など)、IUU漁業が蔓延している。
 こうした違法行為には反社会勢力が介在している場合が存在している。例えば2017年8月、高知地裁は密漁事件で県漁業調整規則違反に問われた暴力団員ら3人に対して懲役5カ月執行猶予3年の有罪判決を言い渡し判決が確定し、高知地検幹部は「証拠上、密漁が暴力団の資金源だと明確になった」としている朝日新聞2018年1月11日)。「ヤクザがいないと養鰻業者の池は埋まらない」との関係者の証言も報道されており*、密漁・密輸の蔓延という事態は水産物に対するトレーサビリティ制度が整備されていない日本においても際立ってひどい状態であると言わざるを得ない。今年度のシラスウナギの不漁を受け、「アリー効果を考慮すると、ニホンウナギ個体群が急激に崩壊へ向かう、または向かっている可能性も想定できる**」との専門家からの指摘などをも併せ鑑みると、国内的には暫定的全面禁漁措置を含んだ大胆な規制、罰則の大幅な強化が必要であると考えられる。にもかかわらず、高知と鹿児島では不漁を受けてシラスウナギ採捕漁期の延長を行うという規制の緩和を行っており(高知新聞2018年2月28日・みなと新聞2018年3月13日)、現段階では状況は末期的と言わざるを得ない。

* 鈴木智彦、Wedge編集部「ウナギ密漁:変わらぬ業界、支える消費者」『Wedge』2015年8月号、23頁。
** 海部健三「2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について その1:ニホンウナギ個体群の「減少」 〜基本とすべきは予防原則、重要な視点はアリー効果〜」、 2018年1月29日。

 国際的にも、現在ウナギを管理する有効な国際的な法的拘束力を伴う関係国による地域枠組みが欠けていること、漁獲量が劇的に削減していること、「重大あるいは取り返しのつかない損害の恐れがあるところでは、十分な科学的確実性がないことを、環境悪化を防ぐ費用対効果の高い対策を引き延ばす理由にしてはならない(環境と開発に関するリオ宣言第15原則)」、「十分な科学的情報の欠如を対象種、関連種又は依存種及び非対象種並びにその環境を保存するための措置をとることを延期する又は履行しない理由とすべきではない(FAO責任ある漁業のための行動規範6.5)」という予防的アプローチ(乃至予防原則)に鑑み、ワシントン条約で少なくとも附属書Ⅱに掲載すべきと考えられる。


JWCSウナギ・ファクトシート 内水面ウナギ漁獲量.jpg
日本の内水面における黄ウナギ・銀ウナギの漁獲量(農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」)
出典:JWCS、「ニホンウナギの生息状況と日本におけるウナギ養殖・販売の現状」、2頁。

 ニホンウナギに関して入手可能なデータは、おもに漁獲量のみであり、農林水産省の「漁業・養殖業生産統計年報」にあるデータでは、日本の内水面における黄ウナギ・銀ウナギの漁獲量は、1960年代には3000t前後であったが、2016年にはわずか68tにまで減少したことが示されている(上図参照)。
 ヨーロッパウナギの附属書Ⅱ掲載提案がされた際、この提案を評価したFAO専門家パネルは、資源が基準レベルから15~30%に減少した場合附属書掲載基準を定めたワシントン条約締約国会議決議9.24に定められたAnnex 2a Aの基準に合致とみなし、1950~1980年もしくは1970~1980年の加入量を基準レベルと考えた場合、この基準レベルから9~19%に減少しているとして、当該種が附属書掲載基準に関する決議Conf.9.24のAnnex 2a A基準を満たしていると判断している*。ニホンウナギは漁獲量でみるならば3%以下であるため、「15~30%」のラインを大幅に下回っている。
 確かに漁獲量は資源のトレンドを必ずしも正確に反映するものではない。しかしながら、入手可能なデータが漁獲量に限られること、また、2016年にワシントン条約締約国会議でイトマキエイ類の付属書Ⅱ掲載提案がなされた際、漁獲量データがその根拠とされ、FAO専門家も漁獲量データを用いて当該種が掲載基準を満たしていると判断**、締約国会議でも掲載が可決されたこと、及び決議Conf.9.24のpara. 2でも定められている予防的アプローチを鑑みるならば、ニホンウナギは附属書Ⅱ掲載基準を十分に満たしていると考えられる。


* FAO, "Report of the Second FAO Ad Hoc Expert Advisory Panel for the Assessment of Proposals to Amend Appendices I and II of CITES Concerning Commercially-Exploited Aquatic Species," FIMF/R833 (En) (2007), p. 91
** FAO, "Report of the Fifth FAO Ad Hoc Expert Advisory Panel for the Assessment of Proposals to Amend Appendices I and II of CITES Concerning Commercially-Exploited Aquatic Species," FIAF/R1163 (En) (2016), pp. 36 - 45.


※ ニホンウナギがワシントン条約附属書掲載基準を満たすか否かについての詳細は、以下の拙ブログ参照。
真田康弘「ニホンウナギはワシントン条約の付属書掲載基準を満たすのか?」、2018年1月6日


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