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日本のCITES(ワシントン条約)二枚舌外交 [国際会議]

 ジュネーブで約2週間にわたり開催されていたワシントン条約(CITES)第18回締約国会議、ようやく終了しました。

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【ワシントン条約第18回締約国会議、最終本会議の模様】

 最終本会議の締めくくりの発言で事務局長より「海産種の附属書Ⅱ掲載を通じて、海産資源の持続可能な利用が図られる」と発言するなど、今回は黒ナマコやアオザメ等海産種の附属書Ⅱ掲載提案が全て採択されるとともに、多数の動植物が附属書に掲載され、環境NGO等多くの参加者から会議の成功を歓迎するコメントが最終本会議で相次いで述べられるなど、大きな成果を残しました。また、保護管理対策の成功からネズミ4種、鳥類2種が附属書ⅠからⅡへの格下げがコンセンサスで採択、審議の際に各国から歓迎と祝福の発言が続きました。
 ここでコンセンサス採択されず(秘密投票ではなく)通常投票となった全ての動物・植物附属書掲載提案、及び、全てが秘密投票となった海産種附属書掲載提案について、科学的観点から提案に対する分析と勧告を行っている①FAO専門家パネル(商業的に利用される水産種のみ提案分析)、②条約事務局、③IUCN/TRAFFIC、④TRAFFIC単独と、日本、中国、韓国、米国、EUの投票態度を表にしてみました。

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【ワシントン条約第18回締約国会議、提案分析と日本の投票行動】

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【ワシントン条約第18回締約国会議、各国の投票行動】

注:緑色は附属書掲載・格上げに賛成もしくは格下げ・削除に反対する立場、黄色は掲載・格上げに反対もしくは格下げ・削除に賛成する立場を示す。

*1 IUCN/TRAFFIC提案分析では、キリンの附属書Ⅱ掲載を通じた国際取引の規制が種の存続に対する主たる脅威を解決しないとする一方、IUCNキリン専門家グルーブの一部科学者より掲載が強く主張されるなど、IUCN内で意見が分裂
*2  ギターフィッシュの附属書Ⅱ掲載提案が掲載基準を満たすか否か判断がつきかねるとする一方、当該種が附属書に掲載するか否かを締約国が検討するに際し、地中海北西部での資源が絶滅したこと、広範な地域において管理措置が存在していないこと、及び当該種のヒレが国際取引において極めて高い価値を有していることに留意することを勧告
*3 ウェッジフィッシュの附属書Ⅱ掲載提案が掲載基準を満たすか否か判断がつきかねるとする一方、附属書Ⅱ掲載を検討するに際し、広範な地域で管理がなされないままに漁獲が行われていること、及び国際取引でヒレが高い価値を有していることに締約国が留意することを勧告
*4 附属書Ⅱ掲載提案されたクロナマコ等3種のうち、1種は掲載基準を満たし、1種は基準を満たさず、残りの1種は不明としつつ、1種が掲載される場合は残りの2種は類似して見分けがつかないため一括掲載を勧告

 一目瞭然ですが、日本は附属書掲載にはできる限り反対し、附属書からの削除や格下げにはできる限り賛成する投票行動を取っています。EU、米国はもとより、中国よりも後ろ向きです(中国は今回オナガキジ、イボイモリ等計5つの附属書Ⅱ掲載提案を行い、条約に協力的な態度を示しました)。
 日本は締約国会議で「附属書掲載提案は科学的根拠に基づき、海産種については専門的知見を持つFAOの勧告を尊重すべきだ、と何度も何度も何度も何度も、繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し発言しました。
 ところが投票態度を見てみると、そのFAO専門家パネルが判断を留保している(但し附属書掲載の利点を留意するよう勧告)サメ・エイ提案はもとより、掲載を妥当としているナマコにすら反対していることがわかります。なお、附属書掲載提案に慎重な姿勢を示すFAO専門家パネルと対照的に、今回はIUCNがサメ・エイ提案で発言を求め、FAO専門家パネルの評価以降に判明した新たな科学的知見を踏まえたとし、附属書掲載基準を満たしていると提案採択を強く推していたのが印象的でした。
 日本の投票態度についてさらに見てみると、条約事務局、IUCN/TRAFFIC、TRAFFIC単独の提案分析のいずれもが掲載賛成の分析・勧告をしているパンケーキガメの附属書ⅡからⅠへの格上げ提案に棄権したのみならず、条約事務局、IUCN/TRAFFIC、TRAFFIC単独の提案分析でいずれも掲載提案反対が勧告されたグラスフロッグの附属書Ⅱ掲載提案、及び条約事務局、IUCN/TRAFFIC、TRAFFIC単独の提案分析でいずれも附属書からの削除は適切でないので附属書削除提案には反対だと勧告したと北インドローズウッドの附属書Ⅱ削除提案のいずれについても、こうした科学的・専門的な立場からの勧告に真向背いて賛成投票しています。言っていることとやっていることの辻褄が合いません(グラスフロッグについては、ワシントン条約での海産種提案や国際捕鯨委員会(IWC)で日本のいつも支持する発言をしばしば長時間にしてくれるアンティグア・バーブーダやセントクリストファーネイビスが提案支持側に回ったことが賛成の要因ではないかと推測されます)。
 何のことはない、「科学、科学」と連呼している日本のワシントン条約の投票態度は便宜主義的な二枚舌外交に過ぎないということです。
キリンに反対、カワウソに反対、サメにも反対、エイにも反対、ナマコに反対、ヤモリやカメにも反対。科学的根拠に基づかない資源管理の失敗で我が国沿岸漁業資源の大幅な減少をこれまで放置しておきながら、他国には「科学的根拠に基づく持続可能な利用」を他国に滔々と説く倒錯(事情を知る一部の海外の関係者は呆れています)。悲しいかな、これが日本のワシントン条約での振る舞いです。近視眼的で大局的な我が国の国益を損なっていると言えるでしょう。パリ協定等での温暖化対策問題同様、日本は中国にも後れを取った後進国です。
 なお、クロナマコ等の投票の際、EUについては適宜EU代表が一括して投票権を行使でき、このEU代表の投票権を否定しない旨が予め合意されていたにもかかわらず、水産庁の担当官が「EU加盟の28カ国がこの会議場に座っているか、この場で確認しろ」と繰り返して要求、これはEUの一括投票権の否認に他ならないことから、投票後EUと米国代表より極めて強い調子の抗議が行われました。最低限、外交儀礼と会議のマナーぐらい、守りましょうよ。不必要に相手を怒らせてどうするの。やれやれ。
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