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「ウナギ資源の減少 ワシントン条約で規制を」(共同通信配信拙稿) [ウナギ]

 共同通信配信で、佐賀新聞(2018.1.24)、静岡新聞(2018.1.25)、FujiSankei Business i (2018.1.26)、北海道新聞(2018.2.3)などで掲載されましたウナギとワシントン条約についての拙稿、以下原文掲載いたします。ご参考までに。挿入されている写真や図表はブログ用に付け加えたもので、新聞記事には掲載されていません。

 (ちなみに以下の一枚目のワシントン条約締約国会議の写真には拡大してよく見ると一か所はっきりわかるおかしな英語表記があります(私が写真を合成したわけではありません)。ヒントはこのブログのその後に出てくる会議の写真です。ちなみにあとの写真では、そのおかしな英語表記がなおっています)

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【2016年9~10月に南ア・ヨハネスブルクで開催されたワシントン条約第17回締約国会議の模様】

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ウナギ資源の減少 ワシントン条約で規制を-早稲田大客員准教授・真田康弘
〈静岡新聞2018.01.25 朝刊 25頁 共同〉
 
 
 ウナギを扱う関係者から悲鳴が聞こえる。絶滅危惧種ニホンウナギの稚魚、シラスウナギの漁獲量が国内外で前の漁期の同じころと比べて1%程度と極端に低迷しているからである。
 資源が極めて憂慮すべき状態にあることは以前より問題となり、日中韓3か国と台湾は非公式協議を開き養殖池に入れるシラスウナギの量の上限を定めている。だが、枠が大きすぎて規制の意味を有していない上、近年中国はこの協議にすら出席していない。台湾はシラスウナギの輸出を原則禁止しているが、これが香港へ密輸され日本に流れていることは業界の常識である。密輸や違法採捕には反社会勢力がしばしば関与しているとも指摘される。状況は末期的だとすら言える。

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【ニホンウナギ。出典:Wikipedia Commons*】

 危機を打開する一策としてワシントン条約による規制を提案したい。日本の業界には「輸出入ができなくなる」と、この条約に拒否反応を示す向きもあるようだが、使い方によっては、この条約はウナギの持続可能な利用をむしろ促進するのである。

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【ワシントン条約第17回締約国会議の模様】

 確かに条約の付属書Ⅰに掲載された場合、商業的な輸出入は禁止される。しかし、この条約には付属書Ⅱという別のリストがあり、この場合、輸出国が「輸出しても種の存続には害がない」と示した許可証を発給すれば、国際取引ができる。もちろん違法漁獲ウナギや密輸ウナギではこの証明ができないので、違法取引の抑止に役立つ。
 ワシントン条約では付属書Ⅱに掲載して海産種の持続可能な利用を図ろうとする動きが近年の流れとなっている。一昨年の締約国会議でも、多数の先進国と途上国が共同でサメやエイの掲載を提案、圧倒的多数で採択されている。

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【ワシントン条約第17回締約国会議の模様】

 付属書掲載基準の詳細は条約の決議で定められており、海産種についてはこれに基づき条約事務局やFAO(国連食糧農業機関)が助言する。FAOはヨーロッパウナギについて「基準となる量の15~30%まで減少していることが付属書Ⅱ掲載の目安で、ヨーロッパウナギはこの基準を満たしている」と勧告、2007年の締約国会議で付属書Ⅱ掲載が決定した。
 農水省統計によると、日本の内水面での親ウナギの漁獲量は、2016年には1960年代に比べ3%程度にまで落ち込んでいる。15~30%どころではない。確かに漁獲量は資源量を正確には反映はしないが、一昨年の締約国会議では、一部の地域で漁獲量が大幅に落ち込んでいるとしてイトマキエイに対する付属書Ⅱ掲載提案がなされ、FAOも漁獲量の落ち込みを理由に「掲載が妥当」と判断。締約国会議で掲載が決まった。こうしてみるとニホンウナギは少なくとも付属書Ⅱの掲載基準を満たしていると考えられよう。

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【日本の内水面における親ウナギの漁獲量。JWCS、「ニホンウナギの生息状況と日本におけるウナギ養殖・販売の現状」、2頁。https://www.jwcs.org/wp-content/uploads/JP_EelsinJapan.pdf

 象牙の違法取引などで日本は国際社会からワシントン条約の「問題児」と見なされることも少なくない。だがもし、最大の消費国である日本が率先してニホンウナギの付属書Ⅱの掲載を提案すれば、日本のこのイメージは一新されるだろう。そして何より付属書Ⅱへの掲載は、ウナギの違法取引を抑止し、反社会勢力への資金の流れを断ち切る重要な武器となるだろう。ウナギを末長く、持続的に利用するため、今こそ日本のリーダーシップが期待される。

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【ワシントン条約第17回締約国会議の模様】

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◆ 関連ブログ記事
「ニホンウナギはワシントン条約の付属書掲載基準を満たすのか?」
http://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2018-01-06

「シラスウナギの輸入量」
http://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2017-08-06

「ウナギとワシントン条約(『WEDGE』掲載記事)」
http://y-sanada.blog.so-net.ne.jp/2017-07-30



* https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Anguilla_japonica.jpg


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日本の水産予算は少ないのか

 水産予算で資源管理に充てられてきた予算は去年(2017年度)は43億円でした。これでは十分に科学的調査が行えないとして60億円にすべきと概算要求しましたが、ばっさり削られて微増の46億円にとどまりました。水産予算全体のなかで3%を占めるに過ぎません。これについては資源管理を担当する水産庁及びその他の機関の関係者からも「これで良いのか」との大きな不満の声が聞こえてきます。日本の水産予算は1700億円で、うち約4割の700億円が漁港整備といった公共工事予算です。

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 では、日本は漁業に対して投ずる政府のお金は他国に比べて少ないのでしょうか。それとも多いのでしょうか。もし絶対額が少ないとすれば、1700億円という水産予算を増額する必要性が検討されるべきでしょう。

 政府が漁業部門に対してどの位お金を投じているのかに関しては、OECDが加盟各国等を統計を集めています。そのグラフが以下のものです。

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【OECD加盟各国等の漁業助成(fisheries support)*。出典:OECD, "Fisheries support" https://data.oecd.org/fish/fisheries-support.htm

 日本は米国に次いで政府から漁業に対して流れるお金の額が多いことがわかります。このことから、問題は絶対額なのではなく、それをどのように配分するのかが問題ではないか、ということが示唆されるのではないかと思われます。

* OECD統計での定義は以下の通り。"Fisheries support is defined as the financial transfers from governments to the fisheries. The support consists of direct revenue enhancing transfers (direct payments), transfers that reduce the operating costs, and the costs of general services provided to the fishing industry.

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革新的漁獲管理手法としての「漁獲戦略(harvest strategy)」:ファクトシート紹介 [漁業資源管理]

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【WCPFC第14回年次会合(2017年12月・於マニラ)会議場の模様】

 これまで漁業資源を管理する国際委員会では、①科学委員会などで資源状態を評価し、②これをもとに本委員会で漁獲枠を決定する、という二段階のプロセスが踏まえられることがふつうです。

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イワシクジラ調査捕鯨が国際法(ワシントン条約)違反認定か?:第69回ワシントン条約常設委員会(2017.12)報告 [クジラ]

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【ワシントン条約第69回常設委員会(2017.12)が開催されたジュネーブ国際会議場すぐ近くにある国連欧州本部(パレ・デ・ナシオン)】

 2017年12月にジュネーブで開催されたワシントン条約(CITES)常設委員会にオブザーバー出席したのですが、この会議では日本のイワシクジラの北太平洋での調査捕獲がワシントン条約に該当するのではないかとしてほとんどの国がこれを問題視、日本政府側(担当は水産庁)は欧州はもとより中南米諸国やケニア、ニジェールといったアフリカ諸国からも非常に厳しい批判を浴びました。このままいくと、来年の常設委員会で日本はイワシクジラ調査捕獲に対して条約違反認定を受ける可能性が出てきました。先進国では前代未聞の事態です。
 条約違反認定された場合の最も厳しい措置はワシントン条約付属書に掲載された特定の種あるいは全ての種に対する取引停止勧告となります。全ての種の取引停止勧告を受けた場合、例えば付属書に掲載されている動物を動物園に外国から受け入れようとする場合、その外国からワシントン条約での取引停止勧告を理由として拒否されるということもあり得ることになります。
 なお、「商業捕鯨実施等のための鯨類科学調査の実施に関する法律」では第三条で、調査捕鯨は「条約その他の国際約束及び確立された国際法規」に基づかなければならないと定めているため、イワシクジラがワシントン条約違反認定された場合、国内法にも抵触することになります。


 こうした経緯についてIKAN発行のニューズレター『IKANet News』第69号(4~14頁 )に小文を書きましたので、以下転載します。掲載された原文はPDFファイルでこの文章の一番最後のリンク先からダウンロードできます。

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ニホンウナギはワシントン条約の付属書掲載基準を満たすのか? [ウナギ]

 私の研究対象の一つはワシントン条約での多国間環境交渉なのですが、その関係から去年も下部委員会の動物委員会と常設委員会にオブザーバー出席しました。今年も7月に動物委員会が、10月に常設委員会が開催されるので、それに出席する予定です。

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[ワシントン条約第17回締約国会議(2016年・ヨハネスブルグ)の模様。スクリーンに映っているのは条約事務局長]

 ここで日本に関係する種の一つとして挙げられるのがウナギです。特に2019年5月から開催予定の締約国会議で、ニホンウナギについて付属書掲載提案が出るのか等何らかの動きがあるのかどうかが注目されます。

 それでは、ワシントン条約ではどのようなとき、付属書に掲載されることがあるのでしょうか。また、ニホンウナギは付属書掲載基準を満たでしょうか。
 結論から言うと、ニホンウナギはワシントン条約付属書掲載基準を満たします。以下、その理由を説明します。

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