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公平さを欠く沿岸漁業者へのクロマグロ漁獲枠配分 [マグロ]

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【スーパーで廉価に出回るまき網により漁獲されたクロマグロ。】

 この時期、まき網で水揚げされたクロマグロがいたるところで廉価で販売されています。産卵親魚を狙ってまき網で一網打尽にされたクロマグロ。処理がよくないため、残念ながら非常に品質のよろしくないものが少ないありません。
 
 このようにまき網が大量に漁獲している一方、沿岸の零細漁業者は公平性を欠いた漁獲枠の配分に途方に暮れています。先日、沿岸漁業者には寝耳に水の形で30kg以上の漁獲枠が発表され、パブコメの期間も2週間程度と極めて少ないうちに、言わば彼らの頭ごなしで決められてしまいました。これに対する沿岸漁業者の強い憤りと不満は当然と言えます。

 クロマグロは国際的には「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」で管理されていますが、日本のクロマグロ管理に対するあまりに後ろ向きな姿勢に対して2016年の年次会合では加盟各国からの批判が集中、日本はまさに非難の十字砲火を浴びることとなりました。私はいろいろな国際会議に出たことがありますが、あんなものすごい状態に遭遇したことはまずありません。
 
 その2016年の会議で日本側は「段階的な規制しか受け入れられないのは、日本には2万人以上の小規模漁業者や定置漁業者がいるからだ」と熱弁を振るって反駁していたのですが*、いざ規制をかけようとすると、沿岸は漁業をやめて下さい、廃業してくださいと言わんばかりの態度は、国際的に言っていることと国内でやることが違うではないですか、と思ってしまいます。

* WCPFC第13回年次会議報告書(会議議事録)、65頁にそのくだりがあります。
 
 大中まき網漁業には1年間で3,000トンもとることができるのに*、7月からはじまる漁期に沿岸漁業者に対して割り当てられた枠はたった1,174トン、まき網の3分の1です。

* 前年小型魚から大型魚に振り替えられた250トンを含む。

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【大型クロマグロの漁獲枠配分。水産庁「太平洋クロマグロの資源状況と管理の方向性について」(2018年3月)、17頁。

 WPCFCでの国際的な合意では、大型魚は漁獲を2002~04年水準に抑制するとなっており、基準年は上記3年が使われているのですが、今回の配分はなぜだかまき網の漁獲枠配分が上記基準年より有利になる2015年と16年の平均が基準として用いられてしまいました。この結果、2002~04年のまき網以外の大型クロマグロの漁獲比率は36%であったところ、これが32%へとさらに減る事態に。

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【大型クロマグロ(30kg以上)の2002-04年漁獲量平均と、今回導入された大型クロマグロ漁獲枠。まき網の比率が高くなっていることがわかる。水産庁「太平洋クロマグロの資源状況と管理の方向性について」(2017年8月)、48頁のデータをもとに作図。】

 こうした沿岸漁業者に対する著しく不公平な配分と日本の主なまき網団体*にはすべて水産庁のOBが再就職されていることとは、何の関係もないと強く信じたいところです。

 * ここに言う「主なまき網団体」とは「全国まき網漁業協会(全まき)」、「北部太平洋まき網漁業協同組合連合会(北まき)」、「日本遠洋旋網漁業協同組合(遠まき)」、及び「海外まき網漁業協会(海まき)」のことを指します。「全国まき網漁業協会」常勤役員規定第3条によると、同協会の常勤役員の年俸は1千万円です。前任の水産庁OBは2004年9月30日から2016年12月13日まで約12年在籍されたので、退職金を別として計約1億2千万円の給与を在任中に受け取ったことになります。したがって2016年の沿岸漁家の平均漁労所得が235万円(農水省統計より)であることを所与とすると、全国まき網漁業協会の理事を12年間務た水産庁OBの同協会からの給与所得は、沿岸漁家の生涯年収分(20~70歳の50年間を働いたと仮定した場合)と同じことになります。

 そもそもWCPFCでは条約第五条「保存及び管理の原則及び措置」の(h)において、「零細漁業者及び自給のための漁業者の利益を考慮に入れること」を加盟国に要求しています。
 また、日本のその策定に中心的役割を果たした国連食糧農業機関(FAO)「責任ある漁業のための行動規範」では、「生存漁業、小規模漁業及び沿岸小規模漁業を含む漁業者の利益が考慮されること」(7.2.2)、「伝統的な漁業慣行、生計を漁業資源に深く依存している原住民及び漁業共同体の必要性並びに関心に適切な認識が払われるべき」こと(7.6.6)が定められています。今回の漁獲配分は、上記の考え方に背くものと考えられます。

 太平洋クロマグロの管理は前途多難ですが、地中海などを回遊する大西洋クロマグロは厳しい規制を導入、資源は現在大きく増加していると考えられています。資源管理の成功例です。

 では、そんな「成功事例」では漁獲枠の削減はどのように行われたか。以下のグラフからも明らかなように、最も厳しい削減の対象とされたのは大規模漁業であるまき網でした。

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【大西洋クロマグロの東大西洋および地中海における漁法別漁獲量と漁獲枠(TAC)。ICCAT, “REPORT for biannual period, 2016-2017 PART I (2017), Vol. 2, English version SCRS,”p. 102.

 以下は漁獲量がピークに達した2007年と、厳しい漁獲規制の導入に伴い漁獲量が最も少なかった2011年の漁獲量と比率をあらわしたものです。まき網は48,994トンの漁獲が4,306トンへの9割減、漁法に占めるシェアも80%から44%へとほぼ半減です。

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【東部大西洋・地中海における大西洋クロマグロの漁法別漁獲量。ICCAT, “REPORT for biannual period, 2016-2017 PART I (2017), Vol. 2, English version SCRS,”p. 98.のデータをもとに作図。】

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【東部大西洋・地中海における大西洋クロマグロの漁法別の漁獲比率。ICCAT, “REPORT for biannual period, 2016-2017 PART I (2017), Vol. 2, English version SCRS,”p. 98.のデータをもとに作図。】

 これに比べて、まき網漁業以外の漁獲量は、12,006トンから5,468トンに減ったものの、減少はマイナス54%と約半減にとどまり、2011年のシェアは56%と大幅に増加しています。これまで一番クロマグロを漁獲し、したがって一番責任が重く、かつ大規模漁業者であるまき網に対して大きな負担を要求したのは、FAO行動規範に照らしても当然のことでした。

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【太平洋クロマグロの漁法別漁獲量と産卵親魚資源量。単位:トン】

 ひるがえって日本ではどうでしょうか。以下は漁法別での漁獲量と親魚資源量、それから過去の総漁獲量の漁法別での比率です。まき網の累積漁獲量は5割を超えており、最も漁獲した以上、資源減少の一義的責任を当然負うべきでしょう。

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【太平洋クロマグロの漁法別漁獲割合】


 大型魚については、その第一段階として、現在行われている産卵親魚のまき網漁業の即時停止が望まれます。昨日のブログ記事で示した通り、現在のような資源状態で産卵親魚を大量に漁獲することは、資源の回復を著しく遅らせる可能性を排除できません。

 北太平洋のマグロに関しては、「北太平洋まぐろ類国際科学小委員会(ISC)」というグループが国際的な資源評価を行っています。しかしISCでは産卵期のまき網でのクロマグロ漁獲が資源にどのような影響を与えるかについて、まだアセスメントをしたことがありません前ISC議長のジェラルド・ディナードさんの発言。森聡之さんFB・20186月1日付)。ISCは水産庁の外郭団体である水産研究・教育機構のプレゼンスが非常に大きいのですが、そのことがアセスメントをしないでいることとは全く関係がないことを強く信じたいところです。

 アセスメントが存在しない場合はどうすればよいのか。それについて「予防原則」もしくは「予防的アプローチ」の考え方に即すべきと考えます。これは、「十分な科学的情報がないことをもって、保存管理措置をとることを延期する理由とし、又はとらないこととする理由としてはならない」(WCPFC条約第六条二項)を意味し、1992年の地球サミットで採択された「環境と開発に関するリオ宣言」、FAO責任ある漁業のための行動規範、国連公海漁業協定などにも明文規定されており、環境や資源管理に関するグローバルな基準です。

 産卵親魚の大量漁獲に関しては「十分な科学的情報がない」以上、このことをもって漁獲の暫定停止という「保存管理措置をとることを延期する理由とし、又はとらないこととする理由としてはならない」ことは、WCPFC条約の趣旨に合致するものと考えられます。

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 上図は2015年時点での漁港別の水揚量と価格です。ここからも明らかなように、一本釣りの大間のマグロは6,000円を超えているのに、境港は1200円台と全く値段が異なります。

 6月11日に衆院議員会館で開催されたクロマグロ緊急フォーラムでは、学習院大学の阪口功先生より、現行規制の問題点などについて講演が行われました。この場で阪口先生より、大型クロマグロのまき網とそれ以外の漁法に対する漁獲配分について、水産庁提示案、均等配分案、水産庁提示案逆比率案のそれぞれで、期待水揚げ額はどのようになるかが報告されました。これにまき網を漁獲停止にした場合の案をつけたものが下図です。

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【成魚漁獲の配分と総水揚げ額(単位:百万円)。阪口功(2018年6月11日)「日本におけるクロマグロ漁獲規制の問題点」(緊急フォーラム「クロマグロ漁獲規制の問題点」配布資料)39頁より作図。配分は留保前の水産庁案(大中まき網3,098トン、その他1,489トン)を使用し、大中まき網の築地中値平均764円、その他の築地中値平均を4,391円として計算(データソース:みなと新聞(時事水産情報))】

 まき網に倍以上の枠がある水産庁案ですら、まき網の期待水揚げ額は相対的に少なく、まき網への配分が少なければ少ないほど、経済的にも大きな水揚げ額が期待でき、まき網への配分がゼロの場合、期待水揚げ額は現行規制案の2倍となることがわかります。以上から鑑み、まき網の漁獲暫定停止は経済的合理性にも即したものであると考えられます。


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