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新北西太平洋鯨類科学調査計画(NEREP-NP)・IWC科学委員会レビュー [クジラ]

 先頃北太平洋で実施されていた日本の今年度分の調査捕鯨が終了したところですが、今回は『IKA-NET News』68号(2017年8月)に寄稿した北太平洋での調査捕鯨に関するIWC科学委員会での議論について書いたエッセイをアップしました。
 なお、元の原稿についてはPDFファイルにしたものをこの文章の一番最後にあるリンク先からダウンロードすることができるようにしました。

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【IWC第66回隔年会合(2016)の模様。筆者撮影】

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新北西太平洋鯨類科学調査計画(NEREP-NP)専門家パネルレビュー [クジラ]

 今回は、『 IKA-NET NEWS』67号に掲載した日本の北太平洋新調査捕鯨計画についてのエッセイ「新北西太平洋鯨類科学調査計画(NEREP-NP)専門家パネルレビュー」をそのまま以下掲載しました。

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北太平洋新調査捕鯨計画の国際法違反(国際法上の脱法操業)の可能性について:専門家パネル勧告と調査計画最終案 [クジラ]

現在商業捕鯨は日本も加盟する国際捕鯨委員会(IWC)の下で行うことが許されていませんが、同委員会を設けた国際捕鯨取締条約では、第8条で「締約政府は、同政府が適当と認める数の制限及び他の条件に従って自国民のいずれかが科学的研究を目的として(for purposes of scientific research)鯨を捕獲し、殺し、及び処理することを認可する特別許可書をこれに与えることができる」と定めています。

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調査捕鯨:IWC科学委専門家パネル勧告の進捗状況について [クジラ]

本年5月スロベニアで国際捕鯨委員会(International Whaling Commission: IWC)科学委員会が開催され、ここで日本が今年から実施する予定の北西太平洋での新調査捕鯨計画案(NEWREP-NP)が議論されました。この計画についてはこれに先立って開催されたIWC科学委員会独立専門家パネルで「致死的調査の必要性が立証できてはいない」とする厳しい評価を受け、これを改善するための必要なものとして多数の計画修正勧告が行われました。
これらに基づき日本は調査計画を若干修正し、最終のものとしてIWC科学委員会に提出し、科学委員会では専門家パネルの勧告の進捗状況につき検討が行われました。
以下、これら検討の進捗状況を簡単に示すため、十分な修正が行われた改善勧告を達成したものには緑色、部分的に進展が見られたが、勧告を十全に達成するにはまだ至らないものには黄色、勧告に応えておらず、進展が見られないものに赤色をつけてみました。

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北太平洋新調査捕鯨計画:IWC科学委での賛否動向について [クジラ]

本2017年5月9日から21日にかけてスロベニアで国際捕鯨員会(IWC)科学委員会が開催されていましたが、その報告書が発表されました。
https://archive.iwc.int/pages/view.php?ref=6557&k=e44fb84b94
【国際捕鯨委員会科学委員会報告書】

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北太平洋新調査捕鯨計画の国際法違反(国際法上の脱法操業)の可能性について [クジラ]

現在スロベニアで国際捕鯨委員会(International Whaling Commission: IWC)科学委員会が開催されており、ここで日本が今年から実施する予定の北西太平洋での新調査捕鯨計画案(NEWREP-NP)が議論される予定です。この計画についてはこれに先立って開催されたIWC科学委員会独立専門家パネルで厳しい評価を受け、こうしたことから日本は調査計画を若干修正しています。そこでこの新調査捕鯨計画案の論点を紹介してみます。

日本が敗訴した南極海調査捕鯨裁判で国際司法裁判所は、捕獲調査が国際法上合法であるためには調査捕鯨実施国の一方的判断だけでは足りず、客観的に当該捕獲調査がこれを認めている国際捕鯨取締条約の規定に基づき、(1)それが科学的であり、かつ(2)科学的研究を目的としたものでなければならないとするとともに、科学的研究を目的としたものであると言えるためには、捕獲頭数が調査計画に照らして合理的か、調査計画から得られた成果は十分か、非致死的調査方法を最大限利用しており、利用できないときだけ致死的調査にしているか、という観点から客観的に合理的でなければならないとしています。そしてこの判決を日本は受け入れる旨表明しました。

北太平洋で新たに実施を計画してる新調査捕鯨計画では、もし商業捕鯨が再開された場合、そのための捕獲頭数の計算に対して資するデータの収集を目的としています。
現在の商業捕鯨の捕獲枠計算方式は、①過去の捕獲実績と、②推定資源量、の2つがわかれば計算することができるものとなっており、推定資源量は調査船が一定の決められたラインをジグザグ状に航行してクジラを目視調査することによって割り出すことができるものとなっています。つまり、捕獲頭数の設定については、捕殺は必ずしも必要とはされていません。
但し、①過去の捕獲実績と、②目視調査により得られる推定資源量、の2つのデータ以外のデータを用いて、捕獲頭数をより精密に割り出すことはできます。これは「コンディショニング(conditioning)」と呼ばれます。このコンディショニングに捕殺によってしか得られない年齢データなどを用いて、より精密な捕獲頭数を割り出す、というのが日本側の調査目的となっています。

捕獲頭数に関しては、①北太平洋沖合でミンククジラを27頭、北太平洋沿岸で147頭、②イワシクジラを140頭、それぞれ捕獲するという計画になっています。

この計画について、IWC専門家パネルは、以下のような判断を下しました。

まず、捕獲頭数については、この頭数は科学的・合理的にその正当性は立証されない、と全会一致で判断しました。なぜこの頭数であるのか、目的に照らして合理的とは言えない、というものです。

特に問題とされたのが、ミンククジラの捕獲頭数が沖合と沿岸で大きく異なっていることでした。当初計画では下図の「7CS」と「7CN」という黄色に塗った海域で100頭、「11」という肌色に塗った海域で47頭、「7WR」「7E」「8」及び「9」という水色に塗った海域で27頭を捕獲する計画となっています(色はわかりやすいように私がつけました)。
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【Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” pp. 81, 84.】

しかしこの図からもわかる通り、水色のエリアで27頭しか捕獲しないのに、沿岸のごく限られたエリアで残りの147頭を捕獲するということになっています。これは余りにアンバランスで科学的な説明がつかない、というのが専門家パネルの全員一致の見解でした。

加えて、沿岸の黄色の水域と水色の水域では、調査方法が通常の調査と全く異なっていることが問題視されました。
先述したとおり、これまでのクジラの生息数調査では偏りが生じないようにするため、あらかじめ決められたジグザグ状の航路を辿る方法が取られています。日本がこれまで行ってきた、そして現在も行っている南極海での調査捕鯨でも、また北太平洋新調査捕鯨計画の沖合部分についても、この「あらかじめ定められたジグザグ状の航路を走る」という方法が採用されています。
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【北太平洋新調査捕鯨計画の沖合部分での調査航路。ジグザグ状の航路をたどる予定になっていることが分かる。Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” p. 132.】

ところが、今回の新北太平洋調査捕鯨では、沿岸については、①30カイリまでは直線状のあらかじめ定められた航路を走るが、②30カイリを超えて航行してもなお予定の頭数のクジラを捕獲することができなかった場合、あとは自由に動き回ってクジラを捕まえて構わない、という計画になっています。
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【沿岸の調査捕鯨の航路イメージ。調査捕鯨船は30カイリまでは決まった直線コースを走るが、30カイリの直線コースで所定の頭数を捕獲できなかった場合は、自由に航路を設定して捕獲することができる。この図で調査捕鯨船a・b・dは30カイリに到達しても所定の頭数を捕獲できなかったため、自由に航路を変更している。Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” p. 82.】

確かに、この北太平洋新調査捕鯨計画の実際の目的は、商業捕鯨再開ができない現状で、小型の捕鯨船しか持たない捕鯨業者の救済という側面があるのかも知れません。小さい捕鯨船でわざわざ遠洋まで漕ぎ出すのは物理的にも経済的にも困難であるという事情もあるのかも知れません。
ただ、調査捕鯨は科学目的で行わなけば国際法違反の操業すなわち国際法上の脱法操業になってしまいます。ゆえに科学目的であることは国際法上も必須条件となります。そして科学目的であるか否かは調査捕鯨実施国の判断にのみ基づくものではない、というのが国際司法裁判所の判断です。日本はこの判決を受け入れました。

では科学者はどう判断したか。このような状態では、サンプルの代表性が保てない、科学的に正当化されない、というのがIWC科学委員会専門家パネルの全員一致の見解となりました。

また、新調査捕鯨計画では、非致死的調査の可能性をきちんと調べていない、と専門家パネルは判断しました。

加えて、現在の調査計画では、日本海・黄海・東シナ海にある「Jストック」と呼ばれる個体群が減少する可能性も否定できない、との懸念が表明されました。

以上等に基づき、IWC科学委員会専門家パネルは全会一致の見解として、以下の判断を下しました。

「本パネルは、(北太平洋新調査捕鯨計画の)主たる目的及び二次的目的が保全管理のために重要であると認めるが、その貢献度にはばらつきがある旨合意する。(北太平洋新調査捕鯨計画)提案者の行った作業にかかわらず、以下の旨を結論する。(1)本調査提案は致死的サンプリングの必要性とサンプル数についてその正当性を十分に立証できてはいない。とりわけ、IWCにおける管理保全措置の改善にどの程度資するのかを定量的に立証できてはいない。(2)本調査提案の計画の基本的部分に欠陥がある」
(IWC, “Report of the Expert Panel Workshop on the Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Programme in the western Pacific (NEWREP-NP),” SC/67A/REP/01 (2017), p. 44)

こうした極めて厳しい判断を受け、水産庁はIWC科学委員会に修正を行った調査計画書を提出しました。
当初案でミンククジラ174頭とイワシクジラ140頭を捕獲する予定にしていたところ、ミンククジラ170頭とイワシクジラ134頭に修正し、ミンククジラに関しては、沖合海域(上記図で水色に塗られた海域)を27頭から43頭に増やし、三陸・釧路沿岸(上記図で黄色に塗られた海域)を100頭から80頭に引き下げ、これがIWC科学委員会で検討されています。
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【修正されたミンククジラの捕獲予定頭数。網走沿岸域(海域11:肌色部分)は47頭、釧路・三陸沿岸部分(海域7CS・7CN:黄色部分)は80頭、北太平洋沖合(海域7WR・7E・8・9:水色部分)は43頭である。】

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