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クロマグロ緊急フォーラム(衆院第二議員会館)報告 [マグロ]

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【緊急フォーラム「クロマグロ漁獲規制の問題点」の模様】

 6月11日、衆院第二議員会館で緊急フォーラム「クロマグロ漁獲規制の問題点」が開催されました。大規模まき網漁業ばかりが優遇され、このままでは生活が立ち行かないと沿岸クロマグロ漁業者の方々が僅かな告知日時しかなかったにもかかわらず200人以上が参加したとのことです(みなと新聞2018年6月13日)。私も授業が終わったのち駆けつけました。

 フォーラムでは学習院大学教授の阪口功先生が現状のクロマグロ規制の問題点に関して基調講演。水産庁はこれまで「親の数と子の数に相関関係はない」「したがって現状でも産卵期の親魚を取っても資源に悪影響はない」と、一般人が常識的に考えても珍妙な説を唱え続けてきたのですが、これが誤っているということが阪口教授から論理立てて説明が加えられました。

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【緊急フォーラムでの阪口教授の発表の模様】

 親がゼロになれば産まれる子供の数はゼロになるため、どのような資源であってもある一定の一線を下回ると「親が減ると、子も減る」という関係が出てきます。これに関しては、水産研究・教育機構の国際水産資源研究所でこの問題を統括する中塚周哉・くろまぐろ資源グループ グループ長が学術雑誌『Marine Policy』に、その関係がでてくるのは親魚資源(Spawning Stock Biomass: SSB)が30,000トンの時点、初期資源量比5%の時点ではないかとの論文を発表されています。

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Nakatsuka, S., Ishida, Y., Fukuda, H., & Akita, T., “A limit reference point to prevent recruitment overfishing of Pacific bluefin tuna.” Marine Policy, 78(August 2017), 110. 横軸で示されている親魚資源量(SSB)が約3万トンまでは子供の数(加入:recruitment)と正比例関係にあることを示されており、これは論文の結果が正しいと仮定すると、親魚資源量が3万トンを下回ると子の数が減ることを示している】

 現在オープンになっている最新の資源評価である2014年時点の親魚資源量は17,000トン、初期資源量比2.6%ですから、これを下回っており、したがってこの論文での結論を所与と仮定すると、最新の資源評価の現状では「親が減ると、子も減る」ということになります。

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水産庁(2017年8月)「太平洋クロマグロの資源状況と 管理の方向性について」より。2014年段階の親魚資源量推定値が約17,000トンで、初期資源量比2.6%であると示されている】

 クロマグロ資源の国際管理は「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」で行われていますが、中塚さんは同委員会が管轄する領域の北太平洋部分についての科学アセスメントを実施している「北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)」でも日本側を代表して会議に参加されていらっしゃいます。『Marine Policy』のこの論文を阪口教授は引用され、したがって日本政府を代表してWCPFCの会議に参加している科学者も、現段階では「親が減ると、子も減る状態にある」ことを論文として発表していることを力説されました。

 ということは、「親が減っても、子は減らない」と言い張っているのは、行政官のみであり、科学者は一致して「現段階では親が減ると、子も減る」と主張していることになります。ある意味でこれは当然の結論ではありますが。

 ちなみに現在ISCでは産卵期のまき網の漁獲をなくせば、資源にどのような影響がでるかのアセスメントを行っていません。このことはこの5月30~31日にISCが横浜で開催したクロマグロに関する科学会合に出席していた外国科学者からもその旨お聞き確認しました。「証拠がないから親をいくら取ってもよい」と天下り先でもあるまき網ばかりを擁護する態度、それはあまり科学的ではないようにも思われます。
 
 残念だったのは、外国人科学者にまき網のインパクトに関するISCのアセスメントが行われていないといった聞き取りをすると、「何か都合のいい答えを外人から聞こうとするのはおやめになってはいかがでしょうか」とびっくりするようなことを言って抑制しようとする一部の政府系研究機関に属する御用研究者の方がいたと伺ったこと。上述の論文で『親が減ると、子は減る』と科学的に真摯な立場を貫かれているのとは対照的なことでした。残念でなりません。 

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