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北太平洋新調査捕鯨計画の国際法違反(国際法上の脱法操業)の可能性について [クジラ]

現在スロベニアで国際捕鯨委員会(International Whaling Commission: IWC)科学委員会が開催されており、ここで日本が今年から実施する予定の北西太平洋での新調査捕鯨計画案(NEWREP-NP)が議論される予定です。この計画についてはこれに先立って開催されたIWC科学委員会独立専門家パネルで厳しい評価を受け、こうしたことから日本は調査計画を若干修正しています。そこでこの新調査捕鯨計画案の論点を紹介してみます。

日本が敗訴した南極海調査捕鯨裁判で国際司法裁判所は、捕獲調査が国際法上合法であるためには調査捕鯨実施国の一方的判断だけでは足りず、客観的に当該捕獲調査がこれを認めている国際捕鯨取締条約の規定に基づき、(1)それが科学的であり、かつ(2)科学的研究を目的としたものでなければならないとするとともに、科学的研究を目的としたものであると言えるためには、捕獲頭数が調査計画に照らして合理的か、調査計画から得られた成果は十分か、非致死的調査方法を最大限利用しており、利用できないときだけ致死的調査にしているか、という観点から客観的に合理的でなければならないとしています。そしてこの判決を日本は受け入れる旨表明しました。

北太平洋で新たに実施を計画してる新調査捕鯨計画では、もし商業捕鯨が再開された場合、そのための捕獲頭数の計算に対して資するデータの収集を目的としています。
現在の商業捕鯨の捕獲枠計算方式は、①過去の捕獲実績と、②推定資源量、の2つがわかれば計算することができるものとなっており、推定資源量は調査船が一定の決められたラインをジグザグ状に航行してクジラを目視調査することによって割り出すことができるものとなっています。つまり、捕獲頭数の設定については、捕殺は必ずしも必要とはされていません。
但し、①過去の捕獲実績と、②目視調査により得られる推定資源量、の2つのデータ以外のデータを用いて、捕獲頭数をより精密に割り出すことはできます。これは「コンディショニング(conditioning)」と呼ばれます。このコンディショニングに捕殺によってしか得られない年齢データなどを用いて、より精密な捕獲頭数を割り出す、というのが日本側の調査目的となっています。

捕獲頭数に関しては、①北太平洋沖合でミンククジラを27頭、北太平洋沿岸で147頭、②イワシクジラを140頭、それぞれ捕獲するという計画になっています。

この計画について、IWC専門家パネルは、以下のような判断を下しました。

まず、捕獲頭数については、この頭数は科学的・合理的にその正当性は立証されない、と全会一致で判断しました。なぜこの頭数であるのか、目的に照らして合理的とは言えない、というものです。

特に問題とされたのが、ミンククジラの捕獲頭数が沖合と沿岸で大きく異なっていることでした。当初計画では下図の「7CS」と「7CN」という黄色に塗った海域で100頭、「11」という肌色に塗った海域で47頭、「7WR」「7E」「8」及び「9」という水色に塗った海域で27頭を捕獲する計画となっています(色はわかりやすいように私がつけました)。
NEWREP-NP map 2.jpg
【Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” pp. 81, 84.】

しかしこの図からもわかる通り、水色のエリアで27頭しか捕獲しないのに、沿岸のごく限られたエリアで残りの147頭を捕獲するということになっています。これは余りにアンバランスで科学的な説明がつかない、というのが専門家パネルの全員一致の見解でした。

加えて、沿岸の黄色の水域と水色の水域では、調査方法が通常の調査と全く異なっていることが問題視されました。
先述したとおり、これまでのクジラの生息数調査では偏りが生じないようにするため、あらかじめ決められたジグザグ状の航路を辿る方法が取られています。日本がこれまで行ってきた、そして現在も行っている南極海での調査捕鯨でも、また北太平洋新調査捕鯨計画の沖合部分についても、この「あらかじめ定められたジグザグ状の航路を走る」という方法が採用されています。
NEWREP-NP 沖合.jpg
【北太平洋新調査捕鯨計画の沖合部分での調査航路。ジグザグ状の航路をたどる予定になっていることが分かる。Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” p. 132.】

ところが、今回の新北太平洋調査捕鯨では、沿岸については、①30カイリまでは直線状のあらかじめ定められた航路を走るが、②30カイリを超えて航行してもなお予定の頭数のクジラを捕獲することができなかった場合、あとは自由に動き回ってクジラを捕まえて構わない、という計画になっています。
NEWREP-NP coastal vessels .jpg
【沿岸の調査捕鯨の航路イメージ。調査捕鯨船は30カイリまでは決まった直線コースを走るが、30カイリの直線コースで所定の頭数を捕獲できなかった場合は、自由に航路を設定して捕獲することができる。この図で調査捕鯨船a・b・dは30カイリに到達しても所定の頭数を捕獲できなかったため、自由に航路を変更している。Government of Japan, “Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Program in the western North Pacific (NEWREP-NP),” p. 82.】

確かに、この北太平洋新調査捕鯨計画の実際の目的は、商業捕鯨再開ができない現状で、小型の捕鯨船しか持たない捕鯨業者の救済という側面があるのかも知れません。小さい捕鯨船でわざわざ遠洋まで漕ぎ出すのは物理的にも経済的にも困難であるという事情もあるのかも知れません。
ただ、調査捕鯨は科学目的で行わなけば国際法違反の操業すなわち国際法上の脱法操業になってしまいます。ゆえに科学目的であることは国際法上も必須条件となります。そして科学目的であるか否かは調査捕鯨実施国の判断にのみ基づくものではない、というのが国際司法裁判所の判断です。日本はこの判決を受け入れました。

では科学者はどう判断したか。このような状態では、サンプルの代表性が保てない、科学的に正当化されない、というのがIWC科学委員会専門家パネルの全員一致の見解となりました。

また、新調査捕鯨計画では、非致死的調査の可能性をきちんと調べていない、と専門家パネルは判断しました。

加えて、現在の調査計画では、日本海・黄海・東シナ海にある「Jストック」と呼ばれる個体群が減少する可能性も否定できない、との懸念が表明されました。

以上等に基づき、IWC科学委員会専門家パネルは全会一致の見解として、以下の判断を下しました。

「本パネルは、(北太平洋新調査捕鯨計画の)主たる目的及び二次的目的が保全管理のために重要であると認めるが、その貢献度にはばらつきがある旨合意する。(北太平洋新調査捕鯨計画)提案者の行った作業にかかわらず、以下の旨を結論する。(1)本調査提案は致死的サンプリングの必要性とサンプル数についてその正当性を十分に立証できてはいない。とりわけ、IWCにおける管理保全措置の改善にどの程度資するのかを定量的に立証できてはいない。(2)本調査提案の計画の基本的部分に欠陥がある」
(IWC, “Report of the Expert Panel Workshop on the Proposed Research Plan for New Scientific Whale Research Programme in the western Pacific (NEWREP-NP),” SC/67A/REP/01 (2017), p. 44)

こうした極めて厳しい判断を受け、水産庁はIWC科学委員会に修正を行った調査計画書を提出しました。
当初案でミンククジラ174頭とイワシクジラ140頭を捕獲する予定にしていたところ、ミンククジラ170頭とイワシクジラ134頭に修正し、ミンククジラに関しては、沖合海域(上記図で水色に塗られた海域)を27頭から43頭に増やし、三陸・釧路沿岸(上記図で黄色に塗られた海域)を100頭から80頭に引き下げ、これがIWC科学委員会で検討されています。
NEWREP-NP ミンククジラ捕獲頭数.jpg
【修正されたミンククジラの捕獲予定頭数。網走沿岸域(海域11:肌色部分)は47頭、釧路・三陸沿岸部分(海域7CS・7CN:黄色部分)は80頭、北太平洋沖合(海域7WR・7E・8・9:水色部分)は43頭である。】

毎日新聞の太平洋クロマグロの記事・補足:境港での巻網の水揚量 [マグロ]

毎日新聞井田純記者によるクロマグロ特集記事「クロマグロなぜ絶滅危機 まき網で幼魚乱獲、政府の規制後手」(2017年5月18日付)のなかで「この背景について、水産庁時代に捕鯨やマグロ漁業などの交渉にあたった東京財団上席研究員の小松正之さんが解説する。「水産庁が日本近海での実効ある資源管理制度を導入できず、大中型まき網漁船がイワシやアジ、サバを取りつくしてしまったことが原因です」。取るものがなくなったまき網船や沿岸の小型漁船が小型クロマグロを取るようになった、というのだ」との記述があります。

そこで、クロマグロ巻網水揚量が日本で一番多い境港での他の魚種の水揚量をグラフにしてみました。
境港におけるまき網年別魚種別水揚量.jpg
出典は鳥取県の以下のHPです。
http://www.pref.tottori.lg.jp/87005.htm
【鳥取県「境港の年別まき網水揚量 」】

とりわけマサバ、ウルメ、カタクチ、マイワシが1990年代以降漁獲量が激減していることをデータが示しています。

こうしたなか、2004年より境港でのクロマグロの水揚量が急増してゆきます。
境港巻き網クロマグロ水揚げ状況.jpg
http://www.sakaiminato.net/site2/page/suisan/conents/report/maguro/
【境港市水産課「境港におけるクロマグロの水揚状況について(まき網)」】

図中にある「平均体重」とは、単に水揚量を水揚げ尾数で割ったものです。
境港市水産課の上記HPでは、以前は水揚げ尾数を公表していましたが、2015年分以降このデータを公表しなくなりました。したがって図中にある平均体重は以前同HPに掲載されていたデータを用いています。

毎日新聞の太平洋クロマグロの記事とまき網クロマグロの初水揚げ [マグロ]

毎日新聞井田純記者によるクロマグロ特集記事。私も少し登場します。
なお、みなと新聞2017年5月19日付報道によると、巻網によるクロマグロの今年初の水揚げが塩釜市場でありました。水揚げしたのは八丈島の東沖周辺で操業していた株式会社福島漁業の第八十八惣寶丸で、入港前の予定水揚数量は約110トンとのことです。関係者筋情報によると、この後も塩釜と銚子で水揚げが続くとのことです。

https://mainichi.jp/articles/20170518/dde/012/020/004000c
【毎日新聞2017年5月18日付「クロマグロなぜ絶滅危機 まき網で幼魚乱獲、政府の規制後手(特集ワイド)」】

「高級すし食材として珍重される太平洋クロマグロ。日本に割り当てられた幼魚(30キロ未満)の漁獲枠を超えたと大きく報道された。絶滅の恐れがあるのに、なぜ国際的な約束を守れないのか。その背景を探った。【井田純】
 国際機関で定めた日本の幼魚の漁獲枠は今年6月末までの1年間で4007トンだったが、2カ月を残した段階で超過した。
 体重30キロのクロマグロはだいたい3歳魚にあたる。この段階で産卵可能な成魚の割合は約2割で、人間なら大人になる手前だ。4歳魚で産卵可能なのは半分程度、5歳魚で100%となる。5歳魚で体重100キロ前後となり、その後300キロ以上に成長する。幼魚を乱獲すれば絶滅の道をたどるのは自明だが、北太平洋マグロ類国際科学委員会(ISC)の統計では、今の漁獲は98%(匹数ベース)を0~2歳魚が占める。
 この背景について、水産庁時代に捕鯨やマグロ漁業などの交渉にあたった東京財団上席研究員の小松正之さんが解説する。「水産庁が日本近海での実効ある資源管理制度を導入できず、大中型まき網漁船がイワシやアジ、サバを取りつくしてしまったことが原因です」。取るものがなくなったまき網船や沿岸の小型漁船が小型クロマグロを取るようになった、というのだ。日本海で生まれたクロマグロは、成長して太平洋を横断する前の0~1歳の間、日本近海にとどまる。この成長する前の段階で取られているわけだ。  「沿岸の漁獲枠は地域ごとで、漁業者別に割り振られていないため、早く多く取ったもの勝ちになる。また、現在の制度には法的強制力がないので、規制に反した操業や無報告操業も各地で頻発しています」と話すのは、国際漁業交渉に詳しい早稲田大地域・地域間研究機構客員講師の真田康弘さん。最新データでは、産卵可能な親魚の資源量は漁業がなかった場合の推定値にあたる「初期資源量」の2・6%に減少している。
 ISCの分析によると、資源に対する悪影響が大きい漁法がまき網漁。現在、生鮮クロマグロの水揚げが最も多いのは鳥取県境港市の境漁港だが、1000トン超の水揚げが続くようになったのは2004年以降だ。魚群探知機を含む漁業の技術革新で、まき網で文字通り「一網打尽」にすることができるようになったためといわれている。真田さんも、日本海のまき網漁の拡大の影響を指摘し「特に6~7月の産卵期の漁は資源的なダメージも大きい」と話す。
 漁獲枠は、日本も加盟する国際漁業管理機関「中西部太平洋マグロ類委員会(WCPFC)」で設定された。マグロ類の中でもクロマグロは全世界のマグロ類(カツオを含む)の水揚げの1%程度に過ぎない。国際自然保護連合(IUCN)は14年11月に太平洋クロマグロを「絶滅危惧」に分類している。
 マグロ類の日本での漁獲量(13年)は17・2万トンで、このうち太平洋クロマグロは0・7万トン。消費者の人気が高いのは、比較的北の海域を回遊し、脂がのっているため。他に南半球に生息するミナミマグロや、日本周辺に生息するビンナガマグロ、メバチマグロなどが消費されている。
 水産庁はこれまで、国際社会が求める、より厳しい漁獲規制に対して「現行規制で十分」と一貫して消極的な考えを示してきた。ところが、違法操業の発覚が相次ぎ、漁獲枠も守れない事態となり、来年1月から罰則付き制度の導入を決めた。だが、具体的な実施計画策定はこれからで、どこまで資源管理に実効性のある取り組みができるかは不透明だ。
 一方、「禁漁」の必要性に言及しているのは今や海外の環境保護団体ばかりではない。今年3月、全国沿岸漁民連絡協議会が会合を開き、産卵期のまき網漁獲禁止と国による漁獲モニタリング制度の確立などを求めるアピールを採択した。
 会合に出席した漁業者の高松幸彦さん(61)=北海道羽幌町=は「北の漁民の間では、資源が回復するなら思い切った禁漁措置に協力したいという声は多い」と話す。40年以上クロマグロ漁を続けてきた高松さんは「持続的なマグロ漁を考える会」代表を務める。漁場とする北海道西部の本格的漁期は9~10月だが、日本海でのまき網漁が盛んになった近年は不漁続きという。「我々沿岸の漁師と、まき網漁を同じに考えるのは無理があります」
 前出の真田さんも指摘する。「漁獲規制は、期間を限ってでも思い切ってやる方が資源回復の効果が大きい。中途半端な規制をだらだら続けると、資源も戻らず、漁業者への経済的影響も長引くことになります」  では、養殖で何とかならないのか。現在の漁獲の7割を占める0歳魚の中には養殖に回されるものも多いが、「養殖で問題は解決しません」と話すのは世界自然保護基金(WWF)ジャパンの山内愛子さん。大西洋クロマグロや豪州のミナミマグロの場合、取って育てる技術が進んだことが逆に小型魚の需要を高め、資源悪化につながった経緯があるという。そのまま水揚げされる場合、取りすぎれば価格が下がるが、養殖では施設にためておけるので漁獲抑制のメカニズムが働きにくい。
 水産行政はクロマグロの資源管理にどう取り組むべきか。世界の漁業管理を視察してきた前出の小松さんは「初期資源の2%程度になった資源は禁漁というのが世界の常識。禁漁措置に踏み切る場合、漁民には休漁補償だけでなく『収益納付』の形を取るべきです」と話す。どういうシステムだろうか。「データに基づき、3年なり5年なり漁をやめることで、最低資源ラインの10%まで回復させるシナリオを科学的に提示する。漁が再開できるようになって利益が出れば補償金を返納してもらうプログラムです」
 禁漁したら、一般消費者の食卓に影響が及ぶのではないか。「比較的安定しているキハダマグロや、管理に成功した大西洋クロマグロを食べればいい。築地市場の卸・仲卸業者も消費者も日本近海のクロマグロを買わない選択をすべきです」と小松さん。
 日本列島では古くからマグロが食べられてきた。宮城県気仙沼市では、約5500年前~3000年前の縄文時代の遺跡が発見され、国内最多規模という約1万片のマグロの骨が出土している。解体時の石器が刺さった状態のものもみつかっており、縄文人もマグロ食に親しんでいた様子をうかがわせる。
 この食文化を未来に伝えていくには、有限の資源を消費しているという認識が必要な時期なのかもしれない。一切れのマグロが口に入るまでに、自然環境への負荷がどれほどかかっているのか改めて考えたい。」
IMG_8549.JPG
【境港に水揚げの巻網で漁獲されたクロマグロ】

クロマグロの国際的管理:WCPFCとICCATの比較 [マグロ]

太平洋クロマグロの国際的管理は「中西部太平洋まぐろ類委員会(Western and Central Pacific Fisheries Commission: WCPFC)」等で行われています。大西洋については「大西洋まぐろ類保存国際委員会(International Commission for the Conservation of Atlantic Tunas: ICCAT)」という別の委員会があり、この委員会は大西洋クロマグロを管理しています。
以下の表が、WCPFCでの太平洋クロマグロの規制とICCATでの大西洋クロマグロの規制を比較したものです。

WCPFCとICCAT・クロマグロ規制.jpg

まず目標については
 WCPFC: 2024年までの10年間で60%の確率で「歴史的中間値(初期資源量比7%相当)」に回復
 ICCAT: 2007年から2024年までの15年間で60%の確率でBMSYに回復。
です。

BMSYという言葉は、国立研究開発法人水産研究・教育機構「国際漁業資源の現況」の用語解説での定義を用いると「資源変動のあるなかである特定の管理方策(一定漁獲死亡率(漁獲率)あるいは、一定率の取り残し等)で長期的に実現可能な最大の漁獲量の平均を達成可能な資源量」を意味します。
この水準に達しているなら資源は健全で水産資源の持続的利用にとって望ましいとして国際的に広く用いられている水準です。
MSY.gif
同じく同機構の用語解説にある図表が上記のものです。この図では、BMSYの水準は資源が元あった水準の概ね半分程度としてイメージされています(BMSYの水準は個々の資源によって異なります)。上記の詳細については、出典元である以下のサイトをご覧ください。
http://kokushi.fra.go.jp/index-1b.html
【水産教育・研究機構「国際漁業資源の現況・用語解説」】

漁獲量制限については
 WCPFC: 30kg未満の小型魚を2002-04年水準で半減。30kg以上の魚の漁獲量は2002-04年水準に制限。
 IATTC: 30kg未満小型魚は原則漁獲禁止。30kg以上の魚については、2007年32,000t(公式統計。ICCAT科学委員会は実漁獲約61,000tと推定)から最大12,900t (2011-13)へ削減。
となっています。
なお、地中海の沿岸零細漁業者に対しては、これら零細漁業者保護のため、30kgを下回っていても、8kg以上であれば漁獲が可能となっています。
大西洋クロマグロ 東部大西洋・地中海での漁獲量.jpg
https://www.iccat.int/Documents/Meetings/Docs/2014_BFT_ASSESS-ENG.pdf
【ICCAT, "REPORT OF THE 2014 ATLANTIC BLUEFIN TUNA STOCK ASSESSMENT SESSION (Madrid, Spain – September 22 to 27, 2014)"】

上記のグラフは、東大西洋・地中海での大西洋クロマグロの漁獲量と漁獲枠の図です。ATEは東部大西洋海域(Atlantic)、MEDは地中海(Mediterranean)での漁獲量、赤線で示されている「TAC」は漁獲枠(total allowable catch)を示しています。
Unreported estimatesは、未報告分としてこれぐらい漁獲されていたであろうと推定されている漁獲量です。この未報告分を含めると、最高で60,000トン程度が漁獲されていたと考えられています。

再びWCPFCとICCATの比較ですが、巻き網の漁期規制については
 WCPFC: 規定なし
 ICCAT: 5月26日から6月24日を漁期指定(=約11か月間の禁漁)
延縄の漁期規制については
 WCPFC: 規定なし
 ICCAT: 公海はえ縄(24m以上)につき1月1日から5月31日まで漁期指定(=7か月間禁漁)
となっています。

漁獲能力制限については
 WCPFC: 2002-04水準に制限
 ICCAT: 漁船数及び総トン数を2007年1月1日から2008年7月1日の間の基準で制限し、かつ、漁獲能力を漁獲枠に見合ったものに削減。
となっています。

ICCATではこうした規制の導入により、資源は回復に向かっていると考えられています。
以下のグラフは、大西洋クロマグロの推定産卵親魚資源量(spawning stock biomass: SSB)です。
産卵親漁量(単位:トン).jpg
【ICCAT, "REPORT OF THE 2014 ATLANTIC BLUEFIN TUNA STOCK ASSESSMENT SESSION (Madrid, Spain – September 22 to 27, 2014)"】

この結果、12,900トンまで減らされた漁獲枠(TAC)は、2017年には23,155トンまで徐々に増やされることがICCATで合意されています。
ICCATクロマグロTAC.jpg

なお、現行のICCAT規制措置(2014年採択。2015年8月2日効力発生)の詳細については、以下をご覧ください。
https://www.iccat.int/Documents/Recs/compendiopdf-e/2014-04-e.pdf
【ICCAT Recommendation 14-04: RECOMMENDATION BY ICCAT AMENDING THE RECOMMENDATION 13-07 BY ICCAT TO ESTABLISH A MULTI-ANNUAL RECOVERY PLAN FOR BLUEFIN TUNA IN THE EASTERN ATLANTIC AND MEDITERRANEAN】

2017年度水産関係予算 [漁業資源管理]

2017年度の水産関係予算で最も多い費目は、公共事業で、718億円・全体の約40%を占めます。漁港の整備などです。
つまり、水産関係予算では魚や海に対して使う予算ではなく、陸地の土木工事系の予算が最も多いということになります。
これに比べて、科学調査など資源管理対策は、水産関係予算の3%、43億円となっています。
2017水産関係予算①.jpg

なお、資源管理対策の費用には、科学調査を目的として実施されている調査捕鯨に関するものは含まれません。
これら調査捕鯨の予算は、約51億円です。つまり、鯨類の調査に関係する予算のほうが、鯨類以外の全ての漁業資源に関する調査に関係する費用より、多いということになります。

2017水産関係予算②.jpg


詳細については、以下のリンク先をご覧ください。
http://www.jfa.maff.go.jp/j/budget/attach/pdf/index-3.pdf
【水産庁「平成29年度水産関係予算の概要」】

水産庁の天下り(2013~2015年度分) [水産行政]

水産庁の天下り先について内閣官房発表資料に基づいてピックアップしてみました。出典は一番下にあるリンク先の資料です。またアップデートしてみようと思います。

【2015年度・水産庁天下り一覧(内閣官房資料)】
・渡邉英世(60)水産庁資源管理部国際課海外漁業協力室長⇨独立行政法人国際協力機構個別専門家
・淀江哲也(57)水産庁漁政部漁業保険管理官⇨ケンコーマヨネーズ株式会社社外取締役
・勝山潔志(56)水産庁増殖推進部付(内閣官房総合海洋政策本部事務局参事官)⇨日本かつお・まぐろ漁業協同組合参事
・加藤久雄(58)水産庁資源管理部漁業調整課長⇨日本遠洋旋網漁業協同組合顧問
・立石正人(60)水産庁漁政部漁政課付(水産庁漁政部水産経営課指導室長)⇨一般社団法人大日本水産会嘱託職員
・丹羽行(58)水産庁資源管理部国際課国際水産情報分析官(九州漁業調整事務所長)⇨一般社団法人水産土木建設技術センター審議役
・森田正博(58)水産庁漁政部漁政課付(北海道漁業調整事務所長)⇨一般社団法人全日本漁港建設協会事務局長
・横山昌幸(60)水産庁漁政部漁政課船舶管理室長⇨全国さんま棒受網漁業協同組合嘱託職員
・平石一夫(58)水産庁増殖推進部研究指導課海洋技術室長⇨一般社団法人海洋水産システム協会事務局長
・香川謙二(58) 水産庁次長⇨公益財団法人海洋生物環境研究所理事長

【2014年度・水産庁天下り一覧(内閣官房資料)】
・大石浩平(57)水産庁漁政部付(水産庁漁政部漁業保険管理官)⇨全国さんま棒受網漁業協 同組合嘱託(常勤)
・長元雅寬(60)水産庁漁政部漁政課船舶管理室長⇨一般財団法人漁港漁場漁村総合研究所事務支援職員
・松本憲二(58)水産庁資源管理部国際課国際水産情報分析官(水産庁増殖推進部研究指導課海洋技術室長)⇨公益財団法人海と渚環境美化・油濁対策機構専務理事
・淀江哲也(57)水産庁漁政部漁業保険管理官⇨一般社団法人漁業情報サービスセンター参与(常勤)
・成子隆英(59)水産庁増殖推進部付⇨北部太平洋まき網漁業協同組合連合会顧問(常勤)
・成子隆英(59)水産庁増殖推進部付⇨公益社団法人全国豊かな海づくり推進協会顧問(非常勤)
・花房克磨(58)水産庁資源管理部付(水産庁資源管理部遠洋課長)⇨公益財団法人海外漁業協 力財団技術顧問(非常勤)
・間辺本文(55)水産庁漁港漁場整備部整備課漁場環境情報分析官(国土交通省北海道開発局農業水産部水産課長)⇨五洋建設株式会社顧問
・宇賀神義宣(59)水産庁漁港漁場整備部長⇨一般社団法人水産土木建設技術センター審議役(常勤)

【2013年度・水産庁天下り一覧(内閣官房資料)】
・宮原正典(58)水産庁次長⇨ 独立行政法人水産総合研究センター理事長
・青井茂雄(60)水産庁漁政部漁政課船舶管理室長⇨東日本船舶株式会社調査部長
・富岡啓二(57)資源管理部漁業調整課付(農林水産省大臣官房政策課調査官)⇨一般社団法人全国底曳網漁業連合会顧問
・長尾一彦(59)水産庁資源管理部国際課国際水産情報分析官(水産庁資源管理部審議官)⇨一般社団法人海外まき網漁業協会参与
・佐々木省裕(60)水産庁漁政部漁政課船舶管理室長⇨公益社団法人全国豊かな海づくり推進協会嘱託
・長畠大四郎(57)水産庁漁政部漁業保険管理官 ⇨一般社団法人責任あるまぐろ漁業推進機構専務理事
・橋本牧(58)水産庁漁港漁場整備部長 ⇨漁港漁場新技術研究会会長
・橋本牧(58)水産庁漁港漁場整備部長⇨一般財団法人漁港漁場漁村総合研究所技術審議役
・本田直久(55)水産庁漁港漁場整備部防災漁村課長⇨漁船保険中央会相談役

http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/kouhyou_h280920_siryou.pdf
http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/kouhyou_h270918_siryou.pdf
http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/kouhyou_h260919_siryou.pdf
【内閣官房「国家公務員法第106条の25第2項等の規定に基づく国家公務員の再就職状況の公表について」】

生鮮クロマグロの値段と境港の企業別巻網水揚量 [マグロ]

生クロマグロの水揚漁港別(10トン以上の水揚げ量があった漁港に限る)の水揚量・価格(2015年)のグラフをつくってみました。一本釣りの大間などとまき網で漁獲されたものが水揚される境港や塩釜では最大で4~5倍の開きがあることがわかります。
クロマグロ水揚価格2015・漁港別.jpg
このデータは「漁業情報サービスセンター」HPより誰でも簡単にアクセスできます。
http://www.market.jafic.or.jp/suisan/
【漁業情報サービスセンターHP「水産物流通調査」】

巻網によるクロマグロの最大の水揚港は境港ですが、どの企業がこの年(2015年)に水揚げしたかを示したものが以下のグラフになります。データの出典は境港市水産課HPですが、直近(2016年)については同HPでの公表を取りやめてしまっています。

http://www.sakaiminato.net/suisan/
【境港市水産課HP「水産王国 境漁港(鳥取県境港市)」】

2015境港巻網漁獲量.jpg

以下の写真は境港に水揚げされたクロマグロです。白いラベルに書かれている数字は重量(キログラム)を表しています。

IMG_8550.JPG

こうした巻網で夏季に大量に漁獲されたクロマグロが、夏場のスーパーで「境港産」「鳥取産」として安価に出回ることになります。

IMG_1084.JPG
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共通テーマ:学問

太平洋クロマグロが誰が捕ってきたのか [マグロ]

 資源量が初期資源量(漁獲がないと仮定した場合の資源量)比2.6%にまで減少しIUCNで絶滅危惧種指定されている太平洋クロマグロに関して、漁獲枠の削減が実施されていますが、この削減分を誰に配分すべきかについて漁業者や行政官、政策決定者、及び専門家の間で現在種々議論が起こっており、先月も東京で国内外の関係者を交えた国際会議が開かれました。
 枠の削減を引き受ける必要があるのは、それを引き起こした当事者であり、それぞれはその責任の割合に応じて削減分を負担するというのが一つの参照軸となり得ると思われます。
 そこで漁法別での漁獲量と親魚資源量、それから過去の総漁獲量の漁法別での比率をグラフにしてみました。



太平洋クロマグロ漁法別漁獲量.jpg
太平洋クロマグロ漁法別累積総漁獲量.jpg

https://www.facebook.com/yasuhiro.sanada.7/posts/1233175316795213

IUUシンポジウム [漁業資源管理]

 私もスピーカーとして参加した昨年11月に開催されたIUU漁業に関するシンポジウムのリンク先を以下に張り付けておきました。私も含め登壇者のパワーポイント資料をダウンロードすることができるようになっています。

https://www.iuu-seminar.com/
【IUUシンポジウム(2016年11月10日開催)】
https://media.wix.com/ugd/d906ce_8b715518519e4a97adb28cebabef303c.pdf
【IUUシンポジウム(2016年11月10日開催):真田のパワーポイント資料】

IUUシンポジウム.jpg

ワシントン条約・ウナギ決議に関するエッセイ [ウナギ]

 日本環境法律家連盟(JELF)発行のニューズレター『環境と正義』2017年1月・2月号に書いたワシントン条約・ウナギ決議に関するエッセイをアップしました。
 ワシントン条約については、科研費の研究として今後も継続して追ってゆく予定です。今年は7月の動物委員会と12月の常設委員会に参与観察に行こうと思っています。
環境と正義(2017.1-2)(CITESウナギ・真田)_ページ_1.png環境と正義(2017.1-2)(CITESウナギ・真田)_ページ_2.png環境と正義(2017.1-2)(CITESウナギ・真田)_ページ_3.png
ワシントン条約(CITES)第17回締約国会合報告㊤:ウナギ調査決議と日本のウナギ規制

 9月24日から10月4日まで、南ア・ヨハネスブルグで野生動植物の国際取引等を規制するワシントン条約の第17回締約国会合が開かれ、筆者も前回締約国会合に引き続き政府とは独立のオブザーバーとして会議の模様を傍聴した。そこで本小論ではこの会議のハイライトを2回に分けて紹介しようと思う。今回は、会議全般についてと日本でも報道されたウナギに関する決議について触れたい。
 まずワシントン条約の簡単な紹介から始めよう。この条約の正式名称は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)」、英語の正式名称の頭文字を取って「CITES(サイテス)」と略称されている。1973年にワシントンで条約が採択されたことから、日本では「ワシントン条約」と通称されている。締約国及び地域は現在182カ国と欧州連合(EU)であり、約3年に一度締約国会合が開催されている。
 この条約は条約本文の他に、付属書Ⅰ・付属書Ⅱなどにより構成される。付属書Ⅰに掲載される動植物は、絶滅のおそれがあり商業取引による影響を実際に受けている、あるいは受ける可能性があるもので、輸出入が原則として禁止される。例外的に許される学術・研究目的等の非商業的取引を行う場合には、輸出国の輸出許可と輸入国の輸入許可双方が必要になる(条約第3条)。付属書Ⅱには、現在必ずしも絶滅のおそれはないが、輸出入を厳重に規制しなければ絶滅のおそれのある種、あるいはこれらの種の輸出入を効果的に取り締まるために規制しなければならない種が掲載される。付属書Ⅱに掲載された種については、輸出入に際して輸出国の許可を受ける必要がある(第4条)。付属書ⅠとⅡの修正及びその他の決議は、締約国会議で3分の2の多数決で採択される。
 今回締約国会議が開催されたのはヨハネスブルグ北部サントン地区にあるサントン・コンベンションセンターだ。ヨハネスブルグ中心部の治安状況は悪く、この結果企業や富裕層がサントン地区に移住し、この地区の開発が進んでいる。ヨハネスブルグの中でサントンは治安が最も良好であるとされているが、全ての建物には電気柵のついた高い塀が張り巡らされ、ホテルや会社の門には警備員が常駐している。ただ、会場周辺には多数の警察車両と警官が配置されていることから安心して移動することができた。
 この会議には世界中から環境NGOが多数参加している。特に今回最大の目玉となっているのがサメやエイの付属書Ⅱ掲載提案と象の国内市場閉鎖提案であるため、これらに関係している環境NGOの姿が目立っていた。日本からの環境NGOとしては野生生物保全論研究会(JWCS)とトラ・ゾウ保護基金が参加した。日本からは業界団体からの参加者が相対的に多い。ちなみに日本の政府代表団は海産種担当の水産庁や、象牙を担当する経産省のプレゼンスが大きく、多国間環境条約の会議である筈なのに、環境省の存在感は高いと言えない。
 この会議で日本にとって相対的に注目を浴びた問題は、ウナギに関する決議であった。現在ワシントン条約ではウナギのうちヨーロッパウナギについては2007年に開催された第14回で付属書Ⅱの掲載が採択され、2009年より国際的規制が導入されている。ヨーロッパウナギの付属書掲載は、同種の資源量の著しい減少とこれにもとづく国際自然保護連合(IUCN)による絶滅危惧種指定等を受けたものである。現在ヨーロッパウナギは絶滅危惧カテゴリーとして最も上位の絶滅危惧1A類(critically endangered)に指定されており、EUは2010年12月以降同種に対しての輸出許可を発給していない。ニホンウナギも資源状態は非常に悪く、1957年には200トン以上あったシラスウナギ(ウナギの稚魚)の国内採捕量は現在約15トン程度と10分の1以下に激減している(表参照)。IUCNも2014年にヨーロッパウナギより1ランク下の絶滅危惧IB類(endangered)に指定している。あくまでIUCNの「レッドリスト」の分類上の話であるが、ニホンウナギと同様に絶滅危惧1Bに指定されているものとして、シロナガスクジラ、タンチョウヅルやトキなどが挙げられる。上記二種以外に関しても、アメリカウナギはニホンウナギと同じく絶滅危惧IB類(endangered)に、東南アジアなどに生息するビカーラ種についても準絶滅危惧種(near threatened)に指定されている。
 ニホンウナギについてはEUなどから付属書掲載提案が出るのではとの観測もあったが、結局EUはそれに代えてCITESの下での調査を求める決議案を提出した。具体的には、①CITES事務局が独立コンサルタントと契約し、ヨーロッパウナギ及びその他のウナギについて調査を行い、②事務局が上記の調査報告書を下部委員会の動物委員会に提出するとともに、適宜国際ワークショップを開催すること、③動物委員会は検討の後次回の締約国会合に勧告を行うこと、④同じくCITESの下部委員会である常設委はヨーロッパウナギの違法取引につき検討し、適宜勧告を行うこと、等を求めている。
 この提案に対して日本は、この問題は地域的な協力の枠組みによって解決されるべきであり、またヨーロッパウナギが既に付属書Ⅱ掲載によって規制の効果が得られたのかを明らかにすべきであると主張して規制に消極的な姿勢を示したものの、決議案への反対自体は見送った。この結果決議は 全会一致で決議案が承認され、本会議でもそのまま採択された。
以上のように、ウナギについてはCITESの下で実施される調査を踏まえ、次回の締約国会合でどうするかが検討されることになる。しかし、ニホンウナギに対する資源保護への取り組みが現状のままのものにとどまるなら、付属書掲載が提案されることは避けられないのではないかと思われる。 現在日本は2014年に採択した中国・韓国・台湾との共同声明に基づき、ニホンウナギの池入れ量を直近の数量から2割削減するととともに、法的拘束力のある枠組みを設立するための非公式協議を行っている。しかしながら、池入れ2割削減は科学的根拠に基づいておらず、これによって資源の持続性が担保されるものではない。法的拘束力ある枠組に関する交渉も、中国の協議不参加等により一向に進展が見られない。
 10月末に中央大学・日本自然保護協会等の主催で東京で開催されたシンポジウム「うなぎ未来会議」 では、昨年漁期に国内で養殖したウナギの約7割が無報告採捕物または違法取引物と推定されるとの衝撃的な報告が海部健三・中央大学准教授から行われた(みなと新聞2016年11月1日付)。シラスウナギの輸入については、かつての最大の輸出国だった台湾が禁輸措置を取って以降、香港からの輸入が激増している。香港にシラスウナギ漁が可能な川は存在せず、香港からの輸出は大部分が台湾からの密輸であることは関係者間では周知の事実である。「闇屋が跋扈し、国際的なシラス・ブローカーが暗躍し、暴力団も関与している」との指摘がなされている通り(『Wedge』2015年8月号)、ウナギに関する違法行為と反社会勢力の関与という黒い噂は絶えず、事実、今年に入ってからもシラスウナギの密漁もしくは無許可所持で暴力団員が宮崎県と香川県で逮捕される事件が発生している(朝日新聞2016年2月21日付宮崎版・4月8日香川版)。
 こうした現状に対する関係者の認識は残念ながら極めて不十分である。業界団体である日本鰻輸入組合の代表は「組合として台湾からのシラス輸入防止に向けて何らかの対策をうつつもりはない。香港からの輸入は日本政府も認めている」と居直り(『Wedge』2016年8月号)、主管庁である水産庁も「闇流通はシラス高騰につながるものの、資源管理とは別問題。闇流通のシラスも最終的には養殖池に入る」と強調、現行の池入れ量規制でもシラスの過剰採捕を防げるとの理解に苦しむ他ない釈明を行うばかりである(みなと新聞2016年10月17日)。
 ただ、こうした現状に危機感を抱き、積極的な対策を促す動きも活発になりつつある。その一つが、先述した「うなぎ未来会議」など研究者発のイニシアティブである。同会議では一般を交えた「市民パネル」が設けられ資源保護に対する議論が行われるなど、積極的な世論喚起が行われるとともに、「国内で養殖したウナギの約7割が無報告採捕物または違法取引物」との海部准教授の調査結果は、「店頭で並んでいる国産ウナギ50匹分がすべてが適切に供給されたものである確率はゼロに近い」との説明とともに、11月10日に衆議院第一議員会館で開催された「違法漁業から水産資源・水産業を守る国際シンポジウム」でも報告された。
 マスメディアの側でも関心は高まりつつある。共同通信では井田徹治編集委員が従来からウナギの問題に関して積極的に記事発信を行ってきたが、近年では月刊誌『Wedge』ウナギ密漁・密貿易問題に関して独自取材に基づく記事を発信している(『Wedge』2015年8月号特集記事「ウナギ密漁」、同2016年8月号特集記事「『土用の丑の日』はいらない」、同12月号拙著記事「世界が迫るウナギの取引規制」)。「違法漁業から水産資源・水産業を守る国際シンポジウム」での海部准教授の報告は日経でも特集記事として掲載された(志田富雄「ウナギの稚魚供給、7割に「不正」の疑い」日本経済新聞2016年11月27日付)。
 政治の側にも動きがみられる。自民党水産部会等の会合同会議の場で井林辰憲衆院議員は「(取引には)反社会的勢力の介在も指摘されている。警察関係者も招き、話を聞くべきだ」と提案、小林史明衆院議員と中谷元衆院議員もウナギの資源管理を担保する上で流通の透明性が必要と訴えている(みなと新聞2016年10月17日)。「違法漁業から水産資源・水産業を守る国際シンポジウム」でも中谷議員より対策の必要性が強い口調で訴えられた。
 将来にわたりウナギを食べ続けてゆくためにも、研究者サイドからの積極的な情報発信、ウナギ資源の危機に関する一般やメディアの関心の高まり、政治からのインプットを通じて、行政を動かしてゆく必要があるだろう。行政に関しても、ウナギ資源管理に関する意思と能力につき疑問を呈せざるを得ない水産庁のみで問題が解決し得ないのはこれまでの経緯からも明らかである。輸出入管理という面から税関、密輸対策として海上保安庁、組織犯罪という面から警察庁、資源調査及び管理という面から環境省という行政一丸となった取り組みが必要とされるだろう。現状の放置は、ウナギ資源の枯渇とワシントン条約での規制を招くのみである。

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